「スーパースター企業」が世界の賃金を抑圧 米国で注目の新理論を日本でも試してみる

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スーパースター企業の存在が賃金の伸びない理由だという(撮影:編集部)

米マセチューセッツ工科大学のデービッド・オーター教授らの「労働分配率の低下とスーパースター企業の興隆」という論文が注目されている。彼らによれば、特定企業の市場シェアが拡大して独占や寡占が進んでいる業種ほど、労働分配率の低下が著しいという。この要因が、米国の労働分配率が1982年から2012年の30年間で趨勢的に低下したことに寄与したと分析した。IT産業などに多いとみられる、少ない人員で大きな収益を上げる、たとえばグーグル、フェースブック、アマゾンといった「スーパースター企業」が、マクロでの労働分配率低下の要因だというのだ。

さらに、このようなスーパースター企業のシェアの高まりは多くの国で生じており、それはスーパースター企業が独り勝ちするような技術革新の結果だと著者らは分析している。これが労働分配率を低下させ、高めの経済成長率の割に賃金上昇率が伸びないという各国経済に共通する問題の原因だ、という見方が有力視されている。

資本家でなく労働者への分配に着目

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この考え方は、2013年に出版されて話題となったトマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』の議論に近い。ピケティ氏は資本の成長率(r)が経済成長率(g)を上回る関係性を示す「r>g」という端的な不等式を用いて、先進国(特に米国)で格差が拡大していることを示した。つまり、実質GDP(国内総生産)は過去ほどのスピードではないにしても、トレンドとしては増え続けているが、それ以上に一部の富裕層がその成長の果実を手にしているということである。

裏を返せば、平均的な家計の所得は富裕層と比較してあまり増えていないということになる。このことが、「閉塞感」や「経済状況への不満」を生み出し、ひいてはウォール街占拠運動やトランプ大統領の誕生につながったとみられる。ピケティ氏の研究はGDPのうち資本に分配される割合、つまり資本分配率の上昇に焦点を合わせたものであった。「スーパースター企業」の考え方は、こうした動きに資本側のアプローチではなく、労働に分配される割合を示す労働分配率の観点から注目したものである。

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