むろん、労働分配率が低下する理由はさまざまである。
鶴光太郎・慶応義塾大学教授は労働分配率低下の経済的要因についてスーパースター企業の影響のほかに、3つの例をまとめている。第1の要因は情報通信技術(ICT)関係の機器の急速な価格低下を背景にした資本コストの相対的低下にあるという。資本が労働を代替する程度が大きければ、労働分配率が低下することになる。第2の要因は貿易やアウトソーシングの影響だという。輸入の増大の影響を強く受けた業種ほど労働分配率が低下する傾向があるようだ。第3の要因としては労働組合の組織率や最低賃金の実質的水準の低下など、社会規範や労働市場制度が指摘できるという。
労働分配率の低下はいくつかの要因が重なり合った結果であると考えることも重要だろう。
非製造業では内需の低迷が労働分配率低下の原因
非製造業では大企業売上高比率と労働分配率との間に関係はなさそうだという結果が得られたが、日本の労働分配率は非製造業でも低下傾向にあるため、低下の要因を考える必要がある。
製造業と非製造業の違いは多数あるが、日本の「内需の低迷」が非製造業の労働分配率を大きく下げている要因の1つだろう。
生産財を輸出することで事業の拡大を図りやすい製造業では、技術革新による資本コストの低下が「攻めの設備投資」の増加をもたらしやすく、スーパースター企業が生まれる可能性がありそうだが、内需への依存度が高い非製造業はそうはいかないだろう。人口減少という確度の高い内需低迷の要因を考えれば、事業を拡大させるための設備投資は限定されよう。大企業の売上高比率は非製造業全体では上昇していない。
また、同様の理由で先行きに期待を持ちにくい非製造業では固定費削減のために賃金水準の低い非正規雇用が増加している。これも労働分配率の低下要因である。
スーパースター企業の興隆は労働分配率の低下という新たな問題を生じさせている面があるものの、一方で経済規模を拡大させているというプラスの面もある。しかし、内需低迷は経済にとってマイナスの面しかない。引き続き、内需低迷への対処が日本経済にとって最大の課題となるだろう。
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