GAFAの躍進を支えるリバタリアン思想の正体 自由至上主義者のユートピアが現出した
「私たちの文化の中で、起業家はスポーツのヒーローや芸能界のスターと同じような、アイコン的な地位に持ち上げられている。起業家の象徴たるハンク・リアーデンから、死によって神格化されたスティーブ・ジョブズまで」と教授は指摘する。
ジョブズの物語は、いまなおアップルユーザーの心をざわつかせ、時価総額1兆ドルを超えるメガ企業になっても魔法が解けることはない。ジョブズは死んで神様となったのだから。喫茶店でMacに向かうクリエイターやビジネスマンの多くはいまも、ジョブズと同じ反逆のスピリットを持っているか、持ちたいと思っているのではないか。
ハンク・リアーデンとは、アイン・ランドの長編小説『肩をすくめるアトラス』で、あらゆる既存勢力や国家の妨害と戦いながらまったく新しい合金を開発した鉄鋼王だが、いまも全米のビジネスマンを刺激し続けるこの物語で最も偉大なのは実業家たち、それも裸一貫であらゆる逆境を乗り越えてまったく新しい事業を築き上げる起業家たちだ。
プライバシーほど神聖なものはない
第3に、「自由市場経済」である。リバタリアンの理想郷では、国家や政府の干渉が最小限に抑えられている。インターネットの黎明期、サイバー空間は国家権力が介入しないユートピアとしてリバタリアンたちを熱狂させたが、そのユートピアの規範がいまやリアルな世界に侵入しつつある。
アップルがFBIへの協力を拒み、個人情報を守るとき、信者たちは喝采を送る。教授は、それはアップルがイケてるからだ、という。それもあるかもしれないが、リバタリアンの世界では、プライバシーほど神聖なものはない。税金についても、同じキャッシュなら、国家に収めるより稼ぐ力がある人間が有意義に使ったほうが世の中のためになるという考え方だ。
GAFAが君臨するのは「少数の支配者と多数の農奴が生きる世界」かもしれないが、その新世界を支えるのは、多数の幸福な農奴たちでもある。アマゾンやグーグル、フェイスブックによって壊滅的な打撃を受けた小売やメディアの関係者にとって、本書で描かれている悪夢は現実だろう。一方で、GAFAのシンプルで、使いやすく、すべての個人に開かれたプラットフォームによって、知り、創造し、発信し、起業した人は少なくないはずだ。
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