ネット社会の怪異現象に潜む「21世紀の妖怪」 現代社会にも妖怪は生まれているか?
妖怪が存立する理由のなかには、腑に落ちない感情や、割り切れない想いを合理化する機能があった。たび重なる災害、貧苦や労苦、身近な人々の死を乗り越え、感情をコントロールするために、妖怪や怪異が「発見」されたという側面がある。つまり妖怪は、民俗生活の合理化、効率化を図るために、時折現れるのだ。
AIも、人間の暮らしを効率的に捗(はかど)らせるため、利便性を目的に、人間が「発明」したものである。こうしたAIや、AIを搭載した機器が、人間生活を脅かす妖怪になっていくかもしれない。これは私の未来予測で、その兆候はまだ捉えられていない。しかし、これから紹介する事例は、新しい技術が生み出した、21世紀の妖怪、怪異とみなすことはできないだろうか。
今年の3月頃、AIアシスタント「アレクサ(Alexa)」を搭載した「アマゾン・エコー(Amazon Echo)」のデバイスをめぐる怪異現象が話題になったことがある。
アレクサは、ユーザーが声をかけて指示すると、音楽の再生、天気やニュースの読み上げ、アラームの設定、オーディオブックの再生などを行ってくれる忠実な人工知能である。そんなAIアシスタントが、なんの前触れもなく、突然奇妙な笑い声をあげるという不具合が、SNSにいくつも投稿されたのだ。アメリカを中心にした報告によると、アレクサが、ふだんとは異なる甲高い女性の声で笑い始めたというのである。またアレクサの怪異では、突然、近くにある葬儀場や墓地のリストアップを始めたという報告もあったそうだ。
こうした事態はAIの「バグ」にもとづくもので、短期間のうちに解決をみている。「獏(ばく)」はよく知られるように、人間の夢を食べて生きる妖獣だったが、AIのバグの予測を超えた行動も厄介なものである。
「付喪神」を思わせるルンバの噂
お掃除AIロボットの「ルンバ」をめぐる現象も、受け手の想像力を刺激する点で今日的なものだろう。
くるくると回って室内を清掃するしぐさ、家人がいないあいだでも目的を果たしてくれるけなげさから、ルンバはペットや家族のような愛情を注がれている。そんなルンバが、開いた玄関を飛び出し、路上をうろついている状態のことを「家出」「脱走」などと呼び、迷子のお掃除ロボットを探す様子もネット上ではよく見かけられる。
日本の古典的な妖怪に、長年使ってきた道具や器具を粗末に扱うと、霊を宿した存在としてふるまう「付喪神(つくもがみ)」がいる。アレクサやルンバにも霊が宿り、なにかを訴えようとしているのか。人間と競い合うAIの知能や、AIならではのバグが、これから先、想像もしない怪異現象を生み出し、妖怪化をもたらす可能性は高い。
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