ネット社会の怪異現象に潜む「21世紀の妖怪」 現代社会にも妖怪は生まれているか?

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昨年来、騒がれ始めている「バーチャル・ユーチューバー(VTuber)」もネット上で活動する奇妙な存在である。

人間が登場する従来のユーチューバーと異なり、バーチャル・ユーチューバーは声をあてる「中の人」の動きをモーションキャプチャで受け取り、そのデータを3Dモデルのキャラクター(アバター)にあてて動かすものである。代表的なバーチャル・ユーチューバーは「ミライアカリ」「輝夜月」「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん(ねこます)」、そしてなによりも「キズナアイ(Kizuna AI)」だろう。

キズナアイは「世界初のバーチャル・ユーチューバー」を自称し、また名前のようにインテリジェントなスーパーAIだと言っているが、もちろんAIではない。ふたつのユーチューブチャンネルを運用し、登録者数は170万人を超えているという。

私などはキズナアイという名前から、「飯綱(いづな)」を思い浮かべる。「管狐(くだぎづね)」とも呼ばれるこの妖獣は、長野県をはじめとする東日本に伝承され、竹筒の中に入ってしまうほどの大きさだという。飯綱使いはイヅナを使って占いをしたり、依頼に応えてイヅナを飛ばし、人に憑いたり、病気にしたりすることもあると信じられている。

キズナアイは「絆」からきている

しかしキズナアイのキズナは、もちろん「絆」という言葉からきているのだろう。

2011年に東日本で起こった大きな災害以降、「絆」は、人と人が心を合わせる言葉として用いられてきた。絆はほんらい、馬や犬や鷹などを木につなぎとめるための綱であったが、いまでは断ち切れない人の結びつきを指すようになった。この目には見えない綱は、無言の強制力を備えて、メディアでもネット上でも、大いに汎用されている。絆という言葉を用いることで、「参加」への要請が図られてきたのだ。バーチャル・ユーチューバーが名前にしたように、情報技術の時代をかけめぐる「キズナ」は、「イヅナ」以上に活動の幅が広く、影響力も大きい。

これまで見てきたように、21世紀の妖怪を「発見」できたとはいえないが、だれかがどこかで新しい妖怪を「発明」し、社会に解き放つ準備をしているかもしれない。そしてこれから、情報化社会に出現した妖怪たちは、人間を駆使していくのではないかと恐れを抱いているところである。

畑中 章宏 民俗学者・編集者

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はたなか あきひろ / Akihiro Hatanaka

1962年大阪府生まれ。近畿大学法学部卒業。著書に『柳田国男と今和次郎』『災害と妖怪』『津波と観音』『ごん狐はなぜ撃ち殺されたのか』『「日本残酷物語」を読む』『天災と日本人』など。2017年、民俗学の視点から現代の社会現象を読み解いた『21世紀の民俗学』を刊行。

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