ネット社会の怪異現象に潜む「21世紀の妖怪」 現代社会にも妖怪は生まれているか?

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毎日のようにニュースにあがる「ネット炎上」。投稿者の意図とは別の広がり方をすることも多い
妖怪が、人々の割り切れない想いをコントロールするために現れるのだとしたら、いまも新しい妖怪が生まれているのではないか。インターネットの「炎上」と伝承の「蓑火(みのび)」の連関、怪異現象のような人工知能(AI)のバグ――揺れ動く「感情」を手がかりに、現代社会に潜む「妖怪」を探してみる。

妖怪の歴史を人間社会の時代区分に単純にあてはめて論じることはできないが、妖怪のほとんどの種族は近代以前に誕生していた。彼らが民俗のなかを生き延び、「目前の出来事」「現在の事実」として人々の前に姿を現したのが、1910(明治43)年に刊行された柳田国男の『遠野物語』にほかならない。ここに出てくる河童や天狗やザシキワラシの行動は、20世紀初めのふるまいだった。

本記事は『東京人』2018年9月号(8月3日発売)より一部を転載しています(書影をクリックするとアマゾンのページにジャンプします)

柳田以降の民俗学者は、『遠野物語』をきっかけに、身近な妖怪を探し始めたのだが、過去のふるまいが掘り起こされるばかりであった。だから、妖怪の現在が突き止められることはなかったのである。

日本人の伝統的な生活様式が変化し、また都市からも村里からも闇が失われていくと、妖怪たちの生活基盤は淘汰されていく。妖怪は自然現象の不可思議や、死への恐怖、生活の苦難にもとづく、人間の腑に落ちない感情を糧に生きてきたからである。妖怪の歴史も人間社会の事情に左右されるのだ。

噂を広める、情報系妖怪「件」

そんななかで18世紀の半ばに生まれ、20世紀半ばまで活動した妖怪に「件(くだん)」がいる。文字どおり半人半牛の姿をした件は、流行り病や農作物の豊凶、災害や戦争を予言するのが大きな特徴だった。幕末には、「今年から大豊作になるが秋以降には悪疫が流行る」と予言し、件を描いた護符がもてはやされた。19世紀末には、「日本はロシアと戦争をする」と予言したこともあったという。

太平洋戦争中も、件は空襲や終戦を予言した。また「3日以内に小豆飯かおはぎを食べた者は空襲を免れる」と戦争から生き延びる方法を指南した。大戦末期から終戦直後には兵庫県の西宮あたりで、牛面人身で和服を着た女の噂が流れたが、彼女が件だったかは定かでない。1995年に発生した阪神淡路大震災のときにも件が目撃されたといわれるが、これは都市伝説の域を出ないと思われる。しかし、異様な形態や不可視から人間に恐怖もたらすそれまでの妖怪に対し、気がかりな噂や伝聞をまき散らし、情報を駆使する点で、件は新しいタイプの妖怪だったといえよう。

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