LGB「T」をのけ者にする芸能界の"暗黙の了解" 日本ではトランスジェンダーが活躍できない

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日本社会はシスの男女を前提に制度設計されている。トイレや更衣室などさまざまな場面で、トランスが生きやすい環境の整備に積極的に取り組もうとしていない。

これは演技の世界でも同じだろう。

筆者が演劇作品に出演した際、主催者側に対し、会場の宿泊施設の風呂や部屋割りを相談しなければならなかった。こうした状況では、シスと同様にトランスが俳優を志し、訓練を積む機会を得ていくことすら、容易ではないだろう。

観客、作り手双方の既存のジェンダー観を見直す必要がある。

称賛すべき志尊淳の演技

トランスではない俳優がトランス役を演じた、優れた作品についても言及しておきたい。

今年の1月期にNHKで放送されたドラマシリーズ『女子的生活』は、主演を務めた若手俳優の志尊淳が、会社勤めをするトランス女性を演じて話題になった。

この配役についても、「トランス役はトランスに」という批判をネット上でいくつか目にしたけれど、筆者はこの作品での志尊の演技を高く評価している。

映画やドラマでトランス女性が描かれる際、「実は元男性」ということを露悪的に強調されがちだ。

映画『彼らが本気で編むときは、』(2017年)では、おしとやかなトランス女性が主人公という設定なのに、主演の生田斗真の筋肉質な身体が目立ち、ホルモン投与を経ている姿には見えなかった。自転車をこぐシーンでは、「うおー!」とあからさまに低い声が出す演技があった。

同作を監督した荻上直子は劇場公開当時、バズフィードジャパンのインタビューに対し、「女の子にしていくという作業をしました」とコメントしている。悪意はないだろうが、コメントにはトランスを女らしさの規範に同化させていく暴力性がうかがえる。

また、バラエティ番組になるが、タレントのはるな愛がわざわざ低い声を出す様子や、ヒゲがあったことをネタにする様子を見たことのある読者もいるのではないだろうか。こうした表現はトランス女性への偏見を助長する側面がある。

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