LGB「T」をのけ者にする芸能界の"暗黙の了解"

日本ではトランスジェンダーが活躍できない

ひるがえって、『女子的生活』における志尊の演技は、無理のある裏声ではなく、地声の範囲の高い声で話し、いかにも「女らしく振る舞ってみました」というような所作を選択していなかった。

会社勤めをするトランス女性としてシス女性と違和感なく共存し、シス女性が日常的にするような振る舞いを絶妙なバランスで演じ切っていたと思う。

加えて本作の脚本は、現実に性的マイノリティたちがぶち当たる困難をポップで見やすい表現に昇華させていた。

「身体はどうなってるの?」といった、トランスによく向けられる質問自体の暴力性をあぶり出し、トランスばかりが質問攻めにあうという非対称な構造をひっくり返したうえで、シス側から歩み寄って学ぶ場面を描いていた。

そして、その学びを通して、不当な差別にシスがシスに対して抗する人物描写まで見せてくれた。

ハリウッドだけでなく日本でも議論を

志尊は朝日新聞のインタビューで、性的マイノリティに対する敬意がうかがえる発言をしている。

「女子的生活」では、「(性的マイノリティーを)許せない」という声も届きました。でも、そう生まれてきたのであって、他人が「許す」「許さない」というものじゃない。そういう風に思ってくれる人が一人でも多くなれば、という気持ちで必死にやりました。

本作を見て、「シスの俳優が演じるとしても、トランスがメディアに表象されて一般に知られる機会が増えるのでは」と考える人もいるだろう。

だが、シス役とトランス役、そのどちらの選択肢も取れるシスの俳優に対し、トランスはトランス役すら得るのが困難な状況を放置したままでいいとは思えない。

日本では現状、メジャーな映画作品やテレビドラマシリーズに出演、あるいは主演するトランスの俳優は存在しないと言っていい。

ハリウッドでは、トランスが俳優として活躍する場を求める議論や、性差別が蔓延する就労現場の見直しが起きている。こうした動きが日本でもわき起こってほしいと思う。

(文中敬称略)

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