LGBTの「アウティング」は暴力的な飛び道具だ 恋の告白を「命がけ」にしない社会をどう作る

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LGBTであることを同意なく言いふらされることを「アウティング」という。アウティングされそうになり、カミングアウトする羽目になったというケースも珍しくないという(撮影:今井康一)

カミングアウトとアウティング

LGBTが自らの性的指向や性自認を表明する「カミングアウト」は、かなり一般的になってきたが、これと表裏一体である「アウティング」という言葉はまだあまりなじみがない。「アウティング」とは、誰かがLGBTであることを、本人の意志に反して同意なく言いふらす「プライバシー暴露」のことだ。

ところが今年8月、ある報道をきかっけに「アウティング」という言葉の知名度が一挙に上がった。「法科大学院に通う息子が授業中に転落死したのは、アウティングした同級生と、自死を防止できなかった大学当局に責任がある」としてご家族が損害賠償を求め提訴したというニュースが舞い込んだのだ。

報道によると争点は2点。想いを寄せられた同級生がSNSでアウティングしたことで、与えた精神的苦痛の大きさと、本人からハラスメント相談を受けていた大学側の対応が果たして適切だったのか、という安全配慮義務違反の有無である。詳しい顛末は「同性愛だと暴露された」転落死した一橋法科大学院生の両親、同級生を提訴「ゲイだ」とばらされ苦悩の末の死 学生遺族が一橋大と同級生を提訴を参照されたい。

今回は、LGBT関連の相談支援と自殺防止の立場からこの問題を検証し、誰をどう支えることが、類似の問題解決と、広い意味での自死防止につながるかを検証する。

この報道でまず注目したのは、ゲイである息子が転落死したことを「提訴」という形で公表したご家族の心情と決断である。いつの時代も「性にまつわる社会的スティグマ(烙印)」の風圧は強く、本人も家族もその前で思わずたじろぐ。たとえば、たまたま誰かが性被害に遭遇したり、独身(未婚)者が妊娠出産したりすると、必ずといっていいほど非難や叱責が飛ぶが、LGBTだと知られた場合も「社会規範からの逸脱者」として似たような烙印が押される。それが社会からの不当なレッテル貼りだと分かっていても、当事者にはそれを剥がす手立てがない。

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