「フルゆとり世代」の言葉に感じる嫌な傾向 「レッテル貼り」は観察力や思考力を鈍らせる

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社会学者ベッカーがラベリング理論で明らかにしたことですが、ひとたびレッテルを貼られた人は、そのレッテルのもとにアイデンティティを確立するようになります。「不良」というレッテルを貼られると、「どうせ自分は不良だから」となって、その方向に進んでしまうのです。ゆとり世代というレッテルを貼られた若者たちの中には、それによって自分に自信が持てなくなるということが実際に起きています。

私がある専門学校の先生たちに講演をしたときに、ある若い先生が「私はゆとり世代で自信が持てない。こんな自分が先生でいいのか? 生徒たちに申し訳ない」と発言しました。同じ話はある自営業の2代目社長からも聞きましたし、幼稚園や学校の先生たちの研修会でも聞いたことがあります。

もう1つの危険性は、安易なレッテル貼りをする人は、それでわかった気になり、観察力や思考力が鈍る可能性があるということです。これが自分の仕事や人生にとっても本当に大きなマイナスになります。というのも、鋭い観察力とそれに基づく深い思考力は、仕事においてもプライベートにおいても非常に重要な能力だからです。それがない人は観察停止と思考停止の状態に陥り、つねにステレオタイプな認識しかできなくなります。

古代中国の伝説的な名医の話

ここで、観察力の大切さを考えるうえでとても参考になる話を紹介します。古代中国に扁鵲(へんじゃく)という伝説的な名医がいました。扁鵲は3人兄弟の末っ子で、長兄と次兄も医者でした。ある日、魏の文王が扁鵲に「3人の中で誰が1番の名医か?」と聞きました。すると、扁鵲は「1番は長兄、2番が次兄、私は1番下手です」と答えました。次に、文王は「では、なぜ上の2人は有名ではないのか?」と聞きました。すると、扁鵲が非常に面白い返答をしました。要約すると次のようになります。

自分(扁鵲)は病気が重くなってから治します。患者は苦しみ家族も心配しています。そんな中で、鍼や薬や手術で治します。ですから、私はすごいと思われて有名なのです。次兄は、患者が病気にかかり始めたとき治してしまいます。症状も少なく患者も苦しくありません。ですから、次兄は軽い病気を治すのが得意だと思われています。長兄は、症状が出る前に、患者本人も病気だと気づかないうちに治してしまいます。ですから、彼は人々から認められず、わが家の中でだけ尊敬されています。

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