「左利きの矯正」を当然とする社会圧の代償 それは「自分らしく生きる」ことの否定だ

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もしもわが子が左利きだったら?(写真:asu0307 / PIXTA)

あなたの利き手は右手ですか? それとも左手ですか? お子さんはどうですか? 割合でいえば、人間の9割が右利きで、左利きは1割だそうです。ですから、21世紀の今現在でも、社会全体は何かにつけ右利き仕様にできています。たとえば次のようなことです。

・文字はもともと右手で書くようにできているので、右手のほうが書きやすい
・自動改札機、自動販売機、はさみ、急須など、右利き用にできているものが多い
・宴席などで、箸は右手で持ちやすいように、箸先が左に置かれる

もしお子さんが左利きだったら、どうしますか? これはけっこう迷うところだと思います。私は長年教師として仕事をする中でいろいろな事例を見てきましたが、「わが子が左利きらしい」と気づいたときの、親の反応はだいたい次の3つに分けられます。あなたはどれに近いでしょうか?

1. 子どものうちなら右利きに直せるはずだ。この子のためにも直してあげよう

2. 右利きに変えないまでも、できたら右手でもできるようにしてあげよう。両手利きは何かと便利だろう

3. 生まれつき左利きなら、それを活かして育てたほうがこの子らしく生きられるだろう

この問題を考えるうえで、以前私が聞いた40代前半のグラフィックデザイナー渡辺さん(仮名)の話が参考になります。

「左手はダメ。右手で書きなさい」

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渡辺さんはもともと左利きで、小学1年生までは親からも先生からも右利きに直すように言われたことはありませんでした。それどころか、幼稚園で絵を描いていたとき、先生に「左手で描けるなんてすごいね」と褒められたこともあったくらいです。ところが、小学2年生のとき、突然、つらい毎日が始まりました。新しく担任になった先生が、「左利きはダメ。特に、鉛筆とお箸だけは右手で使えるようにしなければ」という考えの人だったからです。

渡辺さんが授業中に左手で書いていると、すぐに「左手はダメ。右手で書きなさい」としかられました。慌てて右手に持ちかえて書くのですが、力が入らないのでミミズが這ったような字しか書けません。給食のときも、左手で箸を持っていると「ダメでしょ。お箸は右手。お椀は左手」としかられました。でも、箸を右手に持ちかえて食べようとすると、手がわなわな震えてうまく食べられません。楽しいはずの給食が苦痛な時間になりました。

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