コンテンツホルダーが米国の横暴と戦う方法 角川歴彦×川上量生 対談(5)
コンテンツ流通を阻んでいる真犯人は誰か
角川:ところが、「これを書いたら批判されるんじゃないか」「これを書いたら規制されるんじゃないか」という声が僕の周りにもある。今は何もタブーがない時代のはずなのに、気がついてみると、タブーがいっぱいあるのです。
川上:そうですね。そのタブーを破壊しようとするネット自身が、新たなタブーをいっぱいつくっているんですよ。アップルやアマゾンの問題に関して言えば、ネットの世論は、完全に日本の出版社を「守旧勢力」と見なして攻撃するという、非常に単純なものの見方をしていたのだけれども、実際にそれが正しかったのかという話ですよね。
角川:じゃあグーグルが正しいのか、というね。グーグルはオープンだとみんな言うけれど、全然オープンじゃない。たとえば、今や最新のアンドロイドは世界で6社しか提供されない。日本ではからくもソニーが1社入っているだけで、あとは提供されないのです。そんなことを川上くんと話していたら、YouTubeもオープンだと言っていたはずなのに、ニコニコ動画を排除したわけですよね。
川上:そうです、アクセスを遮断されました。ビジネス面でメリットがあるところではオープンで、そうじゃないところではオープンじゃない。別に彼らが悪いと言っているわけじゃなくて、きわめて合理的な判断だと思うのです。
角川:だったら、「これはビジネスです」と言えばいいんですよ。ところが、全部オープンなふりをする。
一方、アップルのApp StoreやiBooks Storeは審査があってクローズドなシステムだという。クローズドだから悪いというわけではないと僕は思います。あれだけ便利なシステムになっているのだから。でも、実際にはBOOK☆WALKER(KADOKAWAが運営する電子書籍ストアで、ほかの電子書籍ストアへの流通機能も併せ持つ)を通じて僕たちが販売しようとしたサブカル系のライトノベルが、次から次へとリジェクション(販売拒否)された。これはつまり検閲です。
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫のライトノベル)をアメリカのティーンエージャーに読ませたらいけないかと言ったら、そんなわけはないと思う。日本人はみんな自然に読んでいるじゃないですか。そういうところに引っ掛かる人は、『サザエさん』のワカメちゃんが夏休みに水を張ったたらいでジャブジャブしているのもリジェクションするのです。笑い話みたいになっちゃうわけ。
本来、プラットフォームの側でそういう選択をしてはいけないのです。彼らは選択しないで、ただスルーして、結果責任はコンテンツを出した人に負わせればいい。実際、契約書には「(プラットフォーム側は、中身については)責任を負わない」「すべての責任はコンテンツホルダーにある」と書いてある。だったら、リジェクションすべきではないのです。出版社が守旧派で一方的に悪くて、グーグルやアップルが既得権を破壊するヒーローなんて見方は、まやかしですよ。