「男らしさ」に無自覚なまま結婚するリスク 「適齢期」を考えるより、ずっと重要なこと

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先日、20代の女性から、高校生の時に祖父から「女が大学に行ってどうするの?」と言われたという話を聞きました。いまだにそんな話が現実にあるのです。女性の場合、就職に際しては、一般職か総合職かをまず選択することから始まります。働く女性が増えたとはいえ、現状では保育園の数さえ十分ではありません。進学、就職、そして、仕事と家庭の両立と、女性が女性だから抱えてしまう問題がたくさんあります。

これからの時代は、会社、地域、そして、家庭でも男女の対等な関係性が求められることになります。悩む20男さんが彼女と結婚するかどうかにかかわらず、女性という性別が女性の生き方に与える影響についての想像力を培っていくことは、今後の人生に大いに役立つはずです。

悩む20男さんが結婚の意思を示さないのであれば、結婚をリアルな問題として認識している彼女は、別れを考えるかもしれません。だから、別れるのが嫌なら彼女の気持ちを汲んで、結婚に前向きになったらどうですかと言いたくなるところですが、そうは言いません。彼女の「結婚までの段取りは男がするものでしょ」という発言が気になるからです。

ジェンダー・ハラスメントとは

セクシャル・ハラスメントに比べると一般的には普及していませんが、ジェンダー・ハラスメントという言葉があります。〈男らしさ〉/〈女らしさ〉を押しつけることによる差別や嫌がらせを意味します。細々とした仕事は女の役割だからという理由で、女性にお茶くみやコピーといった雑用を強要する場合などが、ジェンダー・ハラスメントの典型例です。

悩む20男さんが彼女に対して、「結婚して一緒に暮らすまでにはちゃんと料理をできるようにしておいてね」などと言えば、これは明らかに〈女らしさ〉の押しつけです。SNSに書き込めば炎上の危険性もあるでしょう。同様に、「結婚までの段取りは男がするものでしょ」という彼女の発言は、〈男らしさ〉の強要だと考えられますが、現状ではこれがハラスメントにあたるとの認識が薄いと言えます。きっとSNSでも炎上しないはずです。

別の例を出します。頭髪の薄い男性が、カツラを被ったり、ヘアスタイルを工夫してカバーしようとしたりすると、隠すほうがみっともないと批判されることがあります。男は堂々としているべきだという〈男らしさ〉を強いているわけですから、明確なジェンダー・ハラスメントです。しかし、残念ながら、男性へのジェンダー・ハラスメントは、多くの人に問題だとは認識されていないのです。

彼女だけではなく、悩む20男さんご自身もこうした〈男らしさ〉の問題を自覚せずに結婚を決めてしまうと、「男がリードする側/女がリードされる側」という平等とは程遠い関係性が形成されてしまうことになります。

日本でも、若年世代の男性の雇用が不安定化しています。加えて、賃金の上昇も望むのが難しくなっているため、共働き化はほぼ不可避です。夫婦の関係性が不平等であることは、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業の時代であれば適合的でしたが、共働き化が進む現代では、逆に足かせとなるでしょう。

高度成長期以降の日本社会では、結婚は商品としてパッケージ化されており、一度、流れに乗ってしまえば、婚約指輪の購入から結婚式、そして、新婚旅行までほぼ何も考えることなく進行します。商品としての結婚に自分たちの関係性を見直す機会が含まれていない以上、もし彼女と結婚すると決めた場合には、事前に、〈男らしさ〉/〈女らしさ〉の押しつけについて話し合っておくことを強くお勧めします。

田中 俊之 大妻女子大学人間関係学部准教授

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たなか としゆき / Toshiyuki Tanaka

1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教、大正大学心理社会学部准教授を経て、2022年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。

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