日本代表に「南ア世代」が残した未来への遺産 代表引退の長谷部、最後のW杯となった本田…

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「1人1人が意見をぶつけ合うことを監督が許してくれた。それを繰り返し、ガーナ、スイス戦を経て、パラグアイ戦に至ったのが大きかった。短期間でチームがギュッと凝縮されたのはそういう話し合いの成果。

レスターがプレミアリーグで優勝した時もそうだったけど、今回のチームはハードワークするやつ、仕掛けるやつがいて、核になる選手も4年前以上に自分の色を持っていた。それがチームの中で重なった時、相手の強力な個の力に負けない集団になる。西野さんがそういうチームへと導いてくれたと思います」と岡崎はしみじみと語っていた。

南ア世代の成功への強い意志、それについていこうとする若い世代の覚醒、そして指揮官の寛容さと柔軟性……。これらがうまく融合したことが、大会前の下馬評の低さを覆す原動力になったのだ。

8強の壁を破るにはこれからどうすればよいのか

3回のワールドカップで、数々の修羅場を潜り抜けてきた代表キャップ数100前後の面々の多くが、ロシアを最後に代表から離れるということは、日本代表の今後を揺るがす一大事である。

「自分がずっと発言してきた優勝ってものを今回活躍した若い世代にしっかり引き継いでもらいたい」と本田は神妙な面持ちで語ったが、本当に20代以下の年下世代が、彼らのような「雑草魂」と「負けん気の強さ」、「世界トップに上り詰めようとする気迫」を持って代表をけん引していけるのか。そこはまだ確証が持てない。

しかしながら、それをやらなければ、日本が再び8強の壁を破るチャレンジができないのも確かだ。

「先輩たちに高い景色を見せてあげられなかった」と号泣した昌子らがその悔しさを忘れることなく、猛烈なスピードで飛躍していけるのか。そして新たに入ってくるであろう20歳前後の若手に南ア世代のタフで泥臭いメンタリティをつないでいけるのか……。

いずれにして、新時代に突入する日本代表がこれまで以上の右肩上がりの軌跡を辿れるように、長谷部・本田ら南ア世代が残した遺産が何なのかをしっかりと分析・検証し、糧にしていくこと。

それを今後の代表を担う選手・スタッフには改めて強く求めたい。

(文中敬称略)

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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