10代にピンと来ないフィルム時代の撮影事情 デジカメ移行の過渡期をカメラマンが語る
ただし、カメラ自体のトラブルは、フィルム時代のほうが少なかったというのが矢野さんの実感。
「高度な精密機器となった今のデジカメに比べれば、フィルムカメラは設定を合わせてシャッターを押すだけのシンプルな構造です。少々の不具合であれば、器用な人なら自分でカメラを直すことができました。それに対してデジカメは、電源が入らなくなったりボタンが利かなくなったりしたら、もうお手上げでまったく操作できなくなります」
フィルムで撮った写真の魅力は、瞬間の深み
そんな矢野さんがデジカメを本格的に使い始めたのは2002年のこと。スポーツ専門の出版社の社員から、フリーランスに転向した頃でした。
「仕事の依頼を受けていた会社がデジカメへ完全に移行することになったのがきっかけでした。この時に会社が購入したのは、ニコンのD1というモデルで、画素数は266万画素。今使っているカメラが2082万画素であることを考えると、性能に雲泥の差があるのがわかります。当時撮影したデジタル写真とフィルム写真を見比べてみると、まだまだ発色や画像の細かさなどが明確に違います」
なお、会社がデジタルカメラ導入を決めた理由は、コストの問題だったそう。フィルム代と現像代が発生するため、複数のカメラマンが1カ月に何十本ものフィルムを使うと多額のコストがかかっていました。一方、デジカメはフィルムも現像も不要。デジタルへの移行が急務であったのも大いに納得できます。
プロレスやプロ野球のナイターのような光量の少ない会場で、動きの早いスポーツをデジカメで撮るのは、「当初は大きなハンデを感じた」と振り返る矢野さん。それでも、デジカメは日進月歩で発達し、今ではカメラメーカーの開発者の努力によってフィルムカメラ以上の精度に向上したと言います。
その上で、フィルム写真への思い入れを、矢野さんは次のように語ります。
「デジカメで撮った写真というのは、あくまで“画像データ”だと思うのです。だからこそ、撮り残ったカットをその場で消せたり、レタッチできたりする利点があります。しかし、実際にこうして昔のフィルムを眺めてみると、ミスショットやタイミングを逃したカットを含めたすべてが残っている。やはりフィルム写真にはその場その場の瞬間でしか写すことのできない深みを感じますね」
デジカメ全盛の現在ですが、その根底を支えているのは、フィルム時代から脈々と育まれてきた撮影技術です。今後も技術とツールの進化が、メディアの現場にさらなる利便性をもたらすことになるでしょう。
(取材・文/友清 哲、編集/ノオト)
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