10代にピンと来ないフィルム時代の撮影事情 デジカメ移行の過渡期をカメラマンが語る
デジカメが登場してしばらくは、「まだまだフィルムの精度には至っていない」という声も多かったものの、最近は技術の向上により、そうした不満の声もほとんど聞かれなくなりました。あえてフィルムで撮影するというのは、デジタル時代における、ちょっとしたぜいたくなのかもしれません。
残量管理や二重露光など、フィルムならではの気遣いも
一方、1985年からスポーツカメラマンとして活躍している矢野寿明さんは、九州産業大学の芸術学部写真学科在籍中にデビューし、球技から格闘技まで幅広くスポーツ写真を手掛けてきました。試合会場に合わせて全国を飛び回り、「日本列島はもう、4周くらいしています(笑)」という大ベテランです。
「フィルムを使っていた当時は、主に『週刊プロレス』という雑誌を担当していました。プロレスの興行は日曜夜に催されることが多いのですが、翌日である月曜の午前中には写真を入稿しなければならないため、毎週てんやわんやでした。そもそも日曜は現像所が休みですから、事前に無理を言って開けておいてもらわなければなりません。撮影後に大急ぎでフィルムを持っていき、現像されたものを深夜3時頃に受け取って、朝イチの飛行機や新幹線に乗って編集部に持ち帰る。毎週その繰り返しでした」
それでも週刊誌の現場はまだいいほうで、スポーツ新聞など翌日の朝刊に間に合わせなければならない場合は、カメラマン自ら現像をすることも。現像に使う薬品で服にシミができるのを避けるため、宿泊先のホテルの浴室で裸になって作業をする人もいたのだとか。また、フィルム時代にはこんな苦労も……。
「デジタルと違って、撮影済みの写真をパソコンに移すことができないので、手持ちのフィルムを使い切ってしまうと何も撮れなくなってしまいます。36枚撮りフィルムを20本持って行っても、たいていギリギリになってしまうので、残数の管理にはかなり気を使っていましたね。これが新聞社のカメラマンであればなおさらで、帰路に何があるかわからないため、必ず数カット分の余裕をもたせなければなりませんでした」
大容量のメモリカードさえ入れておけば、1万枚でも撮影し続けられるデジカメと違い、フィルムではそうはいきません。こうしたフィルム時代特有のリスクは他にもあります。
「撮影途中のアクシデントなどで裏蓋を開いてしまうと、フィルムが感光してすべての写真がダメになってしまいます。あるいは、撮影済みのフィルムを誤ってもう一度入れると、二重写しで絵が重なり、やはり使えなくなります。いろんな意味で、フィルムの取り扱いには注意が必要でしたね」