金融機能強化法で改めて問う、農林中央金庫の意義

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金融機能強化法で改めて問う、農林中央金庫の意義

民主党参議院議員・藤末健三

10月24日に掲載した「金融機能強化法が復活、農水官僚が支配する農林中金の巨額損失救済の疑惑」(→記事はこちら)については、大きな反響をいただいた。その中で、記事への質問、疑問もいただいたので、代表的なものについて、改めて筆者の考えを述べてみたい。

【疑問1】農林中金はJAに出資していないので、親銀行という表現は事実関係の誤りではないか?

疑問のとおり、確かに農林中金は、JAに対する出資はなく、いわゆる”親会社”と子会社の関係にはない。
 
 しかしながら、農林中金はJAを会員に持ち(農林中央金庫法<以下「法」>第8条)、会員たるJAは一口以上の出資をしなければならないほか(法第9条)、JAと信連(県段階の信用農業協同組合連合会)が集めた貯金は系統預け金として農林中金に集約されている。

こうして農林漁業者等から集められた資金は、「JAバンクシステム」の下で保全される仕組みとなっている。同システムでは、農林中金と全中(全国農業協同組合中央会)監査が、信用事業の経営が困難に陥っているJAを早期発見し、運用制限や信用事業の譲渡等を指導することとされている。
 
 以上の通り、農林中金とJAは対等の関係ではなく、指導する・される関係、上位・下位の関係にあることは間違いなく、これをもって”親銀行”と表現しても、言い過ぎではないのではないか。

【疑問2】農林中金は、100%民間組織であり、政府系機関ではない。農林中金だけが公開していないという指摘はあたらないのでは?

農林中金は、役員の任命に対する国の関与がなく、国の出資も受けていない限りにおいて、確かに政府系機関ではない。
 
 しかし、農林中金は、その前身である産業組合中央金庫(大正12年の産業組合中央金庫法)の時代から一貫して、農林漁業関係協同組合の中央金融機関として、特別の法律に設立根拠を持つ組織であって、他の民間金融機関と同列に論じることは適当ではない。
 
 そもそも、法第81条6項に「業務及び財産の状況を知るために参考となるべき事項の開示に努めなければならない」と規定されている。しかし、農林中金に対する農水省の指導の有無や役員給与等に関する情報は、一貫して、他の民間金融機関との競争を考慮して、公開されていないのが実情だ。

民間銀行の役員報酬については、元来より高額批判がつきまとっており、2000年には大阪の市民団体が住友銀行(当時)の株主総会で情報公表を求めるなど、国民の関心は決して低いものとはいえない。

公共性を有する事業を展開する農林中金にあっては、他の民間金融の公表の如何に関わらず、むしろ率先して情報を公表すべきではないのか。
 
 農水省は、役員報酬の公開が他の民間金融との競争において支障があるとすれば、それは具体的にどんな支障があるのか、正しく説明する必要があろう。

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