1本10億円のワインが誕生する「合理的理由」 なぜこれほど「ピンからキリまで」なのか
ワインは「ブドウ果汁だけで造られる」。ブドウ酒というくらいですから、当たり前といえば当たり前なのですが、日本酒やビールと比べてみると、ワインの「特殊性」がわかります。
日本酒の原料は「米」、ビールの原料は「麦芽」や「ホップ」。ブドウのようにいくら絞っても、液体になりません。
では、どうするのか? 「水」を加えるのです。品質がつねに一定している大量の「水」を加えることで液体になるので、品質を一定に保ちながら、繰り返し大量生産することが可能になります。同じ銘柄のビールが、いつ飲んでも味が変わらないのはそのためです。
その点、ワインは「水」を一切加えずに、品質がつねに一定ではない果汁100%で造るので、日本酒やビールのようにはいきません。つまり、ワインは基本的に「同じものは2度とは造れない」のです。
もう1つ重要な「特殊性」。それは、瓶詰め時の状態にあります。日本酒もビールも品質がピークを迎えた時、すなわち製品として「完成品」となった段階で瓶詰めされます。瓶詰めをした時点が1番おいしくて、時間が経つにつれて品質は下り坂になります。
一方のワインはというと、ほとんどの白ワインや早飲みタイプのデイリーワインは別として、瓶詰め時点では「今飲んでもおいしい(またはあまりおいしくない)が、これから先にもっとおいしくなるであろう」というピーク前の状態、つまり、いまだ発展途上の「未完成」状態で瓶詰めされることになります。
「希少性」と「投機性」
これらのワインの「特殊性」から、ワインの価格を押し上げる2つの要素が生まれることになります。
それは「希少性」と「投機性」です。
「同じものは2度とは造れない」から、評判の良いワインは必然的に需要過多になります。売り切れても諦められない消費者は、プレミアムを払ってでも買おうとします。すると次第に市場での価格が上昇していきます。
ワイナリー側としても、毎年発売後にすぐに売切れが続くと、極端な話、1年間売るものがなくなってしまいます。そこで、在庫を少しでも長く持たせるために、製造コストに関係なく値上げをするワイナリーも出てきます。
「これから先に、もっとおいしくなるだろう」このような期待値をふくらますことができるのが、ワインという稀有な商材です。ヴィンテージ・チャートや評論家の評価一つで、市場価格が大きく変動する「投機性」のある商材に、もはや製造コストの概念はありません。
この「希少性」と「投機性」を兼ね備えたワインは、「いくらで売れば利益が出るのか」という発想ではなくて、「いくらまでなら(値上げをしても)売れるのか」、つまり「言い値」と言ってもいいのかもしれません。
もちろん、ほとんどのワインの価格が、製造コストに適切なマージンを乗せたものであるはずですが、1本数十万から100万円以上するようなワインの価格の中には、残念ながら「希少性」と「投機性」を盾に、「言い値」になっているものもあるようです。
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