AIが「神」超える存在になる日は来るのか 小説家ダン・ブラウン氏に聞く

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――一方で、ここまで科学や技術が進歩しているにもかかわらず、宗教間、民族間対立はなくなりません。

世界が抱える多くの問題は、科学や技術が進化すればほぼ解決できると考えている。世界に住むすべての人が、屋根のある家に住み、自分の子どもを食べさせられるようになれば、テロリズムは過去のものになる。

もしテクノロジーが裕福な世の中を作ることができれば、人口減や饑餓、温暖化、環境破壊問題などに解決策をもたらすことができれば、誰もが望むモノを手に入れることができるユートピアを作ることができれば、暴力は劇的に減るのではないか。

人間が技術と統合する時代はすでに来ている

──シンギュラリティ(技術的特異点)はありえますか。

間違いなく。ありえないとすれば、それは人類が自らを滅ぼすような事態が起きるときだろう。すでにコンピュータは、一部の能力においては人間をはるかにしのいでいる。発明や技術は、新たなイノベーションを生むツールとなる。AIはまだ技術的に初歩段階にあるが、今のAIが次のイノベーションを生むツールとなり、それが続けばいつか特異点は訪れる。

同時に、人間も技術と“統合”していくだろう。すでに人は、補聴器やペースメーカーなどを利用している。今やナノテクノロジーを利用して血管を浄化する案さえ浮上している。そのうち、スマホが人間の体や脳に埋め込まれる日も来るだろう。すでに、そういう時代に向かっているのだ。

――科学や技術の発達が避けて通れないのであれば、宗教などがもっとこれを利用することは考えられませんか。

それは小説としても面白いアイデアで、誰かがすでに書いているかもしれないね。私が子どもだった頃の最大のミラクルは、処女懐胎とキリストの復活、そしてキリストが海の上を歩くことだった。

だが、今日のミラクルは、iPhoneがしてくれるあれこれだ。かつてはみんな空を見上げてミラクルが起こらないか考えていたが、今は誰もが下を向いてスマホが起こすミラクルに身を委ねている。スマホはある意味「神」のような存在になり、われわれはスマホやネットに答えやアドバイスを求めるようになった。

悲しいことがあったときに神父に話に行くのではなく、グーグルで鬱病に関する本を探したり、「なぜ私は悲しいのか」などと検索したりする。そうすると、誰かがなぜ悲しいかという理由を教えてくれるという時代だ。

ただし、将来的に唯一無二の「AI神」が登場するとは思わない。テクノロジーは、人々がかつて宗教にたずねていた答えの見つからないようなことに応じる存在になっている。かつては太陽が昇るのを見てミラクルだと思っていたのが、今は太陽のことなど気にせずメールばかりを気にしている。すでにそんな時代だ。

『オリジン 上』(オリジン 上・下 越前敏弥 訳/角川書店/各1800円+税/上338ページ、下326ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

──そのうちAIが複雑な小説を書けるようになるかもしれません。

これを書くのに長年かかったし、とても苦労した。もし同じことをできるとしたら非常に落ち込むが、そんなことができるコンピュータがあるなら値段がいくらだろうと間違いなく買うね。

――次回作の構想は?

本を書く作業というのは、新しい惑星を作るような感じで、ガス雲や粒子が浮いているところに、重力が発生して一気に1つにまとまるような感覚だ。最初は雲のように漠然としているアイデアのようなものが、あることをキッカケにぐっと小さく、固まっていく。それが丸くなってくれればいいが、時にはとんでもない形になって、破棄することもある。小説として確立するには、種、というか、核となる重力が必要だ。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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