81歳社長が率いるMマートの次なる事業構想 村橋孝嶺社長にビジネスモデルを聞く
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):村橋社長の長年の買い手としてのノウハウが反映されていたのですから、同業の方からすると非常に魅力があったのですね。
「三方良し」の強い信念が業界を動かした
小林:卸屋さんから「こんなに安くしては困る」と言う声はありませんでしたか?
村橋:もちろん、ありました。その度に喧嘩になりました。「親の代から30年以上続いている取引先よりも、安く出さなければいけないのはどうしてなんだ」という感じですね。
そんな時は「じゃあ出すのをやめなさいよ。30年と言うけれど、自分のトラックで運転手を雇って毎日配達しているんでしょ。しかも売り掛けでしょ。月末締めで、誰かを集金に行かせているんでしょ。うちは全部現金取引ですよ。安くて当たり前です。文句を言う人にはMマートで安く買えと言えばいいじゃないですか。そしたらあなたも助かると思いますよ」と。
その段階で、「それはそうだ」と気付いた取引先さんは今も成長しているんですよ。その時に「そんなバカなことがあるか」と言った人は、伸びなかったですね。
小林:今のビジネスモデルでは、卸屋さんに課金し、買い手側には課金しないシステムになっていますね。初期、この仕組みに卸屋さんがどういった反応をしたのか気になっていました。
村橋:その当時はネットのことに対して誰もが無知でしたから、年中、喧嘩をしていましたよ。喧嘩の度に、じゃあやめなさいよと言いました。無理をしてまでうちを使う必要はありません。誰かが犠牲になって行う仕組みは永続きしません。「売り手良し、買い手良し、うちも良し」の三方良しにならないと長続きしないですからね。最初から突き放すと、家に帰ってから考え直してくれるんですね。
小林:卸屋さんがMマートに出品するのは商品だけですよね。支払いや物流はどうされていたんですか?
村橋:全部自分たちでやってもらいます。出店の場合、送料は買い手持ちで、 代引き手数料は売り手持ちです。代引き手数料は、売り手の集金費用が省けるのだから、売り手が負担してください、送料は、買い手の買い物に行く交通費が省けるのだから買い手が負担してください、という発想ですね。
小林:食材から始まって、周辺機器などの取り扱いも増えていったのはそういった仕組みに対する売り手側のニーズがあったからでしょうか。
村橋:そうですね。3年くらい経った頃、東北の社長が会いに来てくれたことがありました。聞くと、3年に1回くらい合羽橋に食器を買いに来ていて、そのついでに私に会いに来たということでした。その話を聞いて私は、食器の買い付けのためにわざわざ東北から出てくるのは大変だなと思ったんです。そこで食器の取り扱いを始めてみようかと思ったら、これが難しいんです。なぜなら、食器は安くならないからです。
食器の販売は、各地域の組合が、窯元の値付けを全部押さえているという、古い体質だったのです。これは手強いなと思いました。
ですが、手強いほどビジネスチャンスだと思い、3年がかりで徹底的に攻略していきました。すると1軒だけ食器を出してくれる窯元があったんです。
小林:それはどういった窯元だったのですか?