あなたが知らない「北朝鮮に暮らす人」の素顔

訪ね続けたNGO職員と映画監督が語る

続いてチョ・ソンヒョン監督に話を聞きました。

Q1、監督が韓国籍を放棄してまで、北朝鮮の日常を生きる人々の姿を描きたかったのか。ドイツ国籍を取ってまで、なぜ北朝鮮の映画を作ろうと思ったのか。その理由やきっかけを教えてください。

皆さん、国籍を変えるということにすごく大きな意味を与えるのですが、国籍を変えるということはそれほど大変なことではありませんでした。ドイツの放送局から制作費を頂けるということで、私は躊躇はしませんでした。国籍というのはパスポート、紙でしかないという感覚でした。でも韓国の国籍を捨ててドイツのパスポート、国籍を取得した日は、とても不思議な感じで少し悲しかったです。今はドイツ国籍を持ってとても嬉しく思います。韓国と北朝鮮を自由に往来できるからです。北朝鮮に行っても故郷に戻るようで、韓国に行っても同じ気持ちです。私は韓国人でもなく北朝鮮の人でもなく、相対的な韓国人と言えますね。

Q2、なぜ北朝鮮の普通の人を描こうと思ったのですか?

私たちが持っている北朝鮮のイメージはいいものではありません。北朝鮮の人を「人間」として思わず、北朝鮮を思い浮かべると、北朝鮮の政権をすぐに思い浮かべます。全てひっくるめて悪い、というふうに言っていますよね。それで北朝鮮を孤立させながら。孤立した状況の中での人間を、私たちは忘れているのではないでしょうか? 私が見せたかったのは、そんなに大きいことではありません。北朝鮮にも人間が暮らしているということです。北朝鮮に住んでいる人たちは私たちとよく似ています。特に韓国人ととても似ています。

どこまで北朝鮮の実際の姿に迫ることができたか

Q3、北朝鮮で映画の撮影を行うにあたって、検閲を免れることはできませんよね。撮影した全てのテープを北朝鮮当局が必ずチェックするという制約があるのです。その制約下でどこまで北朝鮮の人々の真実、表情、実際の姿に迫ることができたと思いますか?

(写真:GARDEN Journalism)

もちろん制限はありました。しかし、努力すれば見ることができるものがあります。北朝鮮の人を尊重しながら、批判と蔑視の対象ではなく、私と話し合いができる人だと思って尊敬心を持って近づけば、撮影の限界も超えることができた気がします。海外のクルーが北朝鮮に来ることになると、北朝鮮が提示した情報を全て受諾して、限界を超えられず撮影をすることになるんですよね。

しかし私たちは、北朝鮮側が「これとこれはできない」と言ったら、「どうしてこれはできないの」という話し合いをしました。北朝鮮で撮影をすると(監視のための)同伴者が必ず現場にいるんですよね。私たちも撮影の初期には同伴者が必ずその場にいました。でも、同伴者と一緒に撮影に臨むといい画が撮れませんでした。同伴者がいる中でインタビューをしたのが、映画にも出てくる画家でした。同伴者の女性3人と私の計4人がその画家に注目していたので、その画家が縮こまっている感じでした。インタビューしてもおもしろい話が全然聞けませんでした。元々はとても闊達で明るい人なのに、声も小さくて、どもり気味で、ずっと人目を気にして監視の女性たちを見ていました。「これはちょっといけないなあ」と思って、撮影が終わってから話し合いを持ちました。「監視の女性が見つめているから撮影ができないのだけど、どうしたらいいのだろうか。このまま撮影してドイツで見せたら、ドイツ人たちが『共和国の男は話し下手だし、とても恥ずかしがり屋だし、ロボットのようだ』って思うに違いない。あなたたちがいて彼が話せないのがいいのか、あなたたちがいなくて彼が思う存分自分の話ができるのがいいのか、どっちがいいのか。祖国の民族のためにどっちがいいのか決めてください」と私は迫りました。3人はしばらく沈黙をして、出ていきました。それ以降、彼女たちは祖国の民族のために撮影所には来ませんでした。私たちは、歴史的に初めて監視なく撮影できたクルーだったと思います。彼らを理解して同じ目線で話ができれば、いい撮影ができるということです。共和国で映画を撮る人たちにアドバイスをしたいことがあります。共和国に行ったら、共和国の人が絶対に私たちに見せるものがあります。記者でも政治家でも普通の観光客でも、共和国に行ったら必ずそれを見ることになります。

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