あなたが知らない「北朝鮮に暮らす人」の素顔 訪ね続けたNGO職員と映画監督が語る
しかし、2回目に共和国に入ると、「この人は2回目に来たな」と分かり、もっとたくさんのことを見せてくれます。私たちは本当の撮影に入る前に4回、本取材で2回北朝鮮に行きました。だから、(初めて北朝鮮に入った人より)もっとたくさんのことを見せてもらえたと思っています。他の制作チームは1回北朝鮮に足を踏み入れてその場で撮影して帰ったら、二度と北朝鮮には来ないのが実情です。だから、皆同じものばっかり撮っているということですよね。
Q4、映画のポスターに、「これはプロパガンダか?」という言葉がありました。実際に北朝鮮に行かれて、プロパガンダについて監督自身はどのように感じられましたか?
私の映画の中に出てくる画家も「綺麗な美女しか描かない」と言ったでしょ。だから私、その画家に聞いたんです。「世の中には足りないものもあるし、綺麗じゃないものもある。なぜ完璧で美しいものしか描かないのか」と。画家からは、「私は美しいものだけを選びたい」という答えが返ってきました。
これは、個人の考えではなく、北朝鮮社会のイデオロギーのようなものだと思います。外国人(お客さん)が来たら一番良いものだけを見せるということです。お客さんの立場からこのようなものを見ると、プロパガンダのように映りますよね。私たちの考えでは「プロパガンダ」というと否定的なものですが、北朝鮮では「プロパガンダ」はとても肯定的な意味です。だから、私たちにはいいものしか見せていないということですね。映画を撮った後に、「私は表に出ているものしか見ていないのではないか。真実を見ていないのではないか」という疑問も起こりました。しかし、編集をする段階で、画と画の間に真実の姿も見えてきたのです。「行間を読む」ということが可能です。彼らがいいと思っているものしか見ていないかもしれないけど、画と画の間に第3の画が存在したということに気づきました。
北朝鮮政府の動向に対する評価は
Q5、北朝鮮政府の動向については、どんな評価をされていますか? 今後そのまま南北統一などに向けて平和的な方向に向くのか、それともかつてのように逆戻りになってしまうのか?
金正恩国務委員長とは直接お話ししたことがないので、国務委員長の本音はちょっと話にくいですね。誰も分かりません。それにもかかわらず、私が希望的な観測を持つのは、2012年から計7回北朝鮮を往来するうちに見えてくる変化があったからです。北朝鮮の変わりようを見て、こんなに目まぐるしく変化していいものかと。北朝鮮の社会でも「保守」はいます。最高指導者たちが決定したことに対して皆ついていけるのかと。国民や人民はついていけると思うのですが、保守勢力がついていけるのか私は気になりました。
北朝鮮にも市場経済の様子が変わっており、旅行代理店が増えました。昔は1つだったそうです。その旅行代理店をやっている人から聞いた話では、彼が旅行事業を拡大していく時に、外国の観光客で自転車で旅行する人たちを集めて新しいプログラムを作りました。北朝鮮は車があまりないので、自転車に乗ることがとても多いところなんです。奇抜なアイデアだと思いました。しかし、北朝鮮にも、何かを決定する時に「長老」という決定権がある人たちがいて、アイデアがあったらそういう人たちに伺わないといけないというシステムがあるらしいのです。「長老」たちはダメだと反対しました。根気よくその計画案を提示しましたが、3回出してもまたダメだなと思い、(許可を得る前に)プログラムを始めてしまったそうです。旅行事業にもこんな反対をするわけだから、当然政治的にもあるのではないでしょうか。今回、金正恩委員長と文在寅大統領が平和に向けて会ったときに、私は少し心配になりました。保守勢力がついていけるのかと。
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