「中小企業が新しいことに挑戦するには、アメリカがいいと思います。日本では、会社の実績や規模を見ます。アメリカは商品そのものを見てくれます。実績や規模の大小を問いません。自信のある商品なら思い切ってアメリカで挑戦してみたらどうでしょうか」
玉井社長は自らの経験から、やればできる、という自信が異国の地で持てたと述懐します。
介護ロボット普及のカギはコストと安全性
「夢ROBO」の制作を契機に、ロボット用部品の開発・販売から、念願のロボット本体の開発・販売に乗り出しました。ひと口にロボットと言ってもその用途はさまざまですが、玉井社長は、2025年には15兆円にもなる(みずほコーポレート銀行産業調査部予測)と言われる介護産業分野に注目しました。成長市場であることはもちろんですが、同時に、これから急増が予想される要介護のお年寄りの役に立ち、そして介護スタッフの負担軽減にも貢献したい、と考えました。
日本は産業用ロボットでは世界シェアトップですが、サービスロボット(医療用、清掃用などサービス業で使われるロボット)ではあまり成果が出ていません。玉井社長はその原因を、人間という型にとらわれて開発してしまうから、そしてシーズ(技術)優先で現場のニーズをつかんでいないからだ、と考えました。
「日本は、ロボット=人間というイメージが強く、開発も人型をベースに考えてしまいます。でもサービスロボットの目的を考えると、必ずしもヒト型にこだわる必要はありません。利用目的に応じた形を目指しました。また、介護スタッフ50人以上から意見や要望を聞き、現場の声を開発に生かしました。作り手目線から使い手目線への転換です」(玉井社長)
介護施設からは、現場のスタッフの肉体的な負担を軽減できるロボットが欲しい、という声が多く寄せられました。玉井社長は、寝たきりの方を抱えて移乗させる「ロボヘルパーSASUKE」の開発に着手します。
ベッドと車いすの移乗をアシストする介助機器ですが、優しく抱きかかえるようにスリングシート(体幹を支持する吊り具)ごとベッドから持ち上げるので、要介護者に負担がかかりません。「いちばん優しい抱き方は何か、と考えたら、“お姫様抱っこ”に行き着きました」と玉井社長。得意の小型サーボモーターが、体重80kg、身長175cmまでの要介護者を指先の小さな力で優しく持ち上げます。
製品には自信がありましたが、一般に普及させるためには大きな壁が2つあった、と玉井社長は言います。
「1つは価格です。日本人技術者は完璧を求めすぎて多機能になり、結果として製品が高価なものになりがちです。勝負は、いかにして今ある技術を削って必要な機能に絞り込み、コストを下げるかです。
もう1つは、公的な安全基準です。開発の過程では国からの指示も明確でなく、完成しても後から決まった基準に合致しないリスクがありました」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら