大阪市中央区にあるロボットメーカー・マッスルの本社には壁をよじ登るロボットが展示されています。このロボットは、設置された棒を手と足でつかみ、上下に移動します。同社の玉井博文社長は「あの時の苦労を忘れないようにってことですかね」と笑います。
あの時とは、2010年の上海万博開催時。大変な苦労の末、この壁をよじ登るロボットを作り上げました。
マッスルは、もともとはモーターの会社です。それが、なぜロボットを作ることになったのか。きっかけは、上海万博の前年、レストランで喜多俊之氏に偶然に出会ったことでした。
ロボット部品からロボット本体へ
喜多氏は各国の美術館にコレクションが展示される世界的プロダクトデザイナーです。当時、上海万博の日本産業館のディレクターをしていました。喜多氏に自らをどう表現すべきか悩み、結局、「ロボット屋の玉井です。覚えておいてください」と自己紹介しました。
するとそれから数日後、喜多氏から“ロボットを作ってもらえないか”との打診がありました。喜多氏が、総合プロデュサーの堺屋太一氏と打ち合わせの時、ロボット先進国日本を打ち出そう、ということで一致しました。そこで玉井氏のことを思い出したのです。なにわの中小企業の誇り、と引き受けることにしました。
しかし、それからが大変。その時点で、ロボット部品は作っていても本体を作るのは未体験でした。
「部品を納めていた会社に相談に行くと、3年はかかる、と言われました。追い込まれましたねぇ」と玉井社長。期限も切迫していたので、基本の機構設計を検討した後、わらにもすがる思いで知り合いの社長さんに協力を依頼しました。すると、万博に出展するなんて一生に一度の機会だ、と14社が賛同してくれました。まさに、なにわ社長の心意気です。おのおの作業分担して、なんとか期限に間に合わせ「夢ROBO」として出展しました。実質3カ月の突貫作業でした。
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