笑いのセンスは、江戸時代に学べ! たとえ捕えられても、笑わせたい人たち

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半日で発禁の、危険な絵

 最後に、渡邉さんが「たいへん危険な絵」という『道外武者 御代の若餅』を見てみよう。国芳の弟子である歌川芳虎が描いたもので、芳虎はこの絵で手鎖の刑に処された。手錠をして自宅軟禁という刑罰だ。

歌川芳虎『道外武者 御代の若餅』
大判錦絵 嘉永2年(1849)閏4月 個人蔵 前期展示
「君が代とつきかためたり春のもち」

一見、武士が餅つきをしている、のどかな絵のようだが、杵を振りかざしているのは木瓜の紋から織田信長、臼のところにいるのは桔梗の紋から明智光秀、となれば後ろのお猿は豊臣秀吉、そしていちばん奥で餅ができるのを待っているのが徳川家康だという。

「つまり、光秀、信長、秀吉が苦労して天下を統一して、それを家康が横取りしたという意味が込められているのです」

当時は家康のことを浮世絵にするなどもってのほか。バレたら大変なことになる。家康が秀吉の家来だったことを書いた書物が発禁になったこともあった。この絵には役所の検印が押されている。検閲した人は風刺に気づかずに許可してしまったのだ。

「ところが江戸の人たちは、すぐに意味を読み取りますから、この絵はよく売れました。評判になったために、発売から半日で発禁になった。でもそういうときは地下で出版が続けられるのですね」

芳虎だけではなく、浮世絵師が捕まることは珍しくなかったという。

「国芳もしょっちゅう奉行所の取り調べを受けて、これは裏に意味があるだろう、そんなことはありません、と言い逃れをして何とかやっていました。みんなスレスレのところを狙って、時々、捕まったりしながら、検閲と表現の戦いを続けてきたのです」

笑いとともに、江戸の反骨精神にも触れられる展覧会だ。


「笑う浮世絵 戯画と国芳一門」

前期10月1日(火)~10月27日(日)、後期11月1日(金)~11月26日(火)

太田記念美術館
東京都渋谷区神宮前1-10-10
10:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日 月曜(11月4日は開館し、翌日の5日は休館)、10月28日~31日
TEL03-5777-8600(ハローダイヤル)
一般1000円、大高生700円、中学生以下無料

 

仲宇佐 ゆり フリーライター

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なかうさ ゆり / Yuri Nakausa

週刊誌のカルチャーページの編集・執筆を経て、美術展、ラジオ、本などについて取材、執筆。全国の美術館と温泉をめぐり歩いている。

 

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