非ネイティブのアジア同士のほうが英語が伝わる
転機が訪れたのは数年後だ。
私はアジア各国のIBM社員と仕事をするようになった。彼らとも英語でやり取りするのだが、不思議なことに、米国人を相手にしていたときよりも、ずっとコミュニケーションがしやすいのだ。相手が何を言っているかがよくわかるし、相手の気持ちもよくわかる。こちらの意図もよく伝わる。結果として、仕事もスムーズに回る。
お互いに英語ネイティブではないので、そもそも難解な言い回しは使えない。簡単な単語でコミュニケーションをせざるをえない。でも、だからこそ、言っていることがわかるのだ。余計な装飾を取り除いたシンプルなメッセージがストレートに届く。そのほうが、仕事をするときははるかに重要だ。
1989年6月のある日、中国・香港地区の製品責任者だった同僚の部長から受けた電話を、私は忘れられない。
その彼とはすでに何度もやり取りして信頼関係を構築していた。つい1カ月ほど前にも、東京出張してきた彼と、製品計画についてかなり突っ込んだ議論をして、対応策をまとめたばかりだった。
そして、6月4日、天安門事件が起こった。心配していた私の元に、彼から電話があったのは、事件の数日後のことだ。
「どういう状況になっている?」
「自分の周りでは特に変わったことはない。だが、東京で話し合った対応策はいったん白紙に戻したい。この状況では、マネジャーとして投資判断ができない」
電話は10分ほどだっただろうか。彼は多くを語らなかった。当局による言論統制がどのように行われるかもわからない中で、慎重にならざるをえないのは当然だし、お互いにそのことはわかっていた。だが、彼の気持ちは痛いほど伝わってきた。1年後、彼は海外に移住した。
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