牛肉が好きな人に教えたい「3大血統」の凄み 和牛の「質」は血統で決まる

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和牛の9割を占める黒毛和種においては、現在3つの血統の流れがあります。但馬牛のルーツで、兵庫の「田尻」を祖先とする系統は、体格は小さめですが肉質が優れていると言われています。鳥取の「気高(けだか)」を祖先とする系統は、発育がよく大きく育ち、子育てがうまいことで定評があります。岡山の「第6藤良」を祖先とする系統は、発育もよく肉量が多くとれ、ロース芯の面積が大きいのが特徴と言われています。

和牛の血統が守られたのは、前回(「赤身肉ブーム」から広がる和牛生産の新境地)もお話ししたように、現在流通している和牛の99.9%に但馬牛の血統が守られていたから。

日本は、文明開化とともに牛肉を食べる食文化が広まりましたが、それと同時に小柄な日本の牛を外国の牛のように体格のいい牛にしようと、外国種の雄との交配をしていた時代がありました。が、気性が荒く、働かず、病気も多い、そしてなにより肉質がよくないという残念な結果となってしまい、和牛の純粋種絶滅の危機に直面してしまったのです。

生涯で1500頭もの子孫を残した「田尻号」

けれど、兵庫の奥深い小代(おじろ)と呼ばれる小さな集落に、外国種との交配を逃れた但馬牛が残っていたのです。小代は、標高700mの高地でほかの村と離れていたこともあり、その地域のみで交配が行われ、それがまたとても優秀な雌の血統集団だったのです。

そしてここで生まれ、肉質のよい強い遺伝子をもった牛が「田尻号」。田尻号は、1939年に生まれ1954年まで活躍した種牛で、当時はまだ凍結精液などなかったので自然交配なのですが、なんと生涯で約1500頭もの子孫を残したというから驚き! すごい生命力です!!そしてこの田尻号のDNAが、今の黒毛和種の99.9%のルーツとなっているのです。和牛の偉大なる父とも言っていいでしょう。

その後登場したのが、鳥取の「気高号」。全国和牛能力共進会の第一回大会(1966年)で、肉牛区(発育能力の高い牛)で一等賞を獲得した種牛です。気高号の血統は、オレイン酸(不飽和脂肪酸)の含有値が高くなるという特徴があり、また増体系(体格が大きいので、肉量も多い)なので、生産効率がよく喜ばれました。同じような増体系なのが、岡山の藤良系で、体格がよく、質のいいお肉がとれる牛として人気の血統です。

日本各地で優良なブランド和牛が誕生したのは、戦後まもなく、凍結精液を使った人工授精が行われるようになったことがとても大きいと思います。優秀な雄牛の精子を、各地に運び優良な雌牛に交配させて、新しい和牛を誕生させる。人気の雄牛の子孫は数え切れないくらいです。ちなみに、昭和40年代に活躍した気高号は、凍結精液によって、9000頭以上の子孫を残したと言われています。

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