北海道から見える日本の産科医療の重大危機 過疎地で医師集めに苦闘する自治体の切望

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ただ、遠軽町の強みは、その大変さを町がよく理解できることだった。いくら希望して赴任してきた石川医師であっても、そんな生活は続くわけがない。

<写真キャプション> 遠軽厚生病院分娩室に立つ石川医師。再開時に機器がそのまま残っていたのは幸いで、休止期が長期化しなかったこともよかったのだろう。助産師は退職があって人数が減ってしまったが、再開後は、徐々に復活している(筆者撮影)

だから医師募集は石川医師が来たあとも熱く続けられ、ダイレクトメール第2弾が発送された。そして今度は、遠く兵庫県から女性医師が新たに赴任してくることになった。

遠軽厚生病院の産科医は2人体制となり、石川医師は1年ぶりに休暇が取れる生活に戻ることができた。そして今も町は、3人目の医師を探す活動を続けている。医師が集まる場でアピールを行っているし、町のホームページには「産婦人科医師募集」のページがある。長期的対策としては、遠軽厚生病院で研修することを約束した旭川医大の学生に返還の必要がない修学資金を提供している。

根本的な解決には国に動いてもらわなければならない

佐々木修一町長は「医師が3人来ても、それで問題は終わりではない」と言う。

「何とかして医師に来てもらうということは、実は対症療法に過ぎない。根本的な治療は、市区町村にはできません。そこは、やはり国に動いてもらわなければならない」

首都圏の電車を医師募集の中吊り広告で埋め尽くしたり東京で記者会見を開いたりといった大掛かりな行動に出たのは、遠軽町の「都市部の人に、医療過疎という問題に目を向けてほしい」という切実な願いの表現だった。

「お医者さんが来てくれたのはうれしいですよ。私も、町の花火大会で小さい子を抱いた若いご夫婦に声かけられて『遠軽で産めるようになったから、もう1人産みます!』なんて言われると、まあ、ちょっと涙が出そうになるよね。

でも、地域格差がどんどん広がるような仕組みがそのままだったら、近いうちにまた同じことが繰り返されるでしょう。実は遠軽は脳外科にも困っているんです。以前は周囲から脳外科患者さんを乗せた救急車が集まってきていたのに、今は遠軽から救急車が出ていきます。高速道路も、車の少ない田舎には要らないだろうという人もいらっしゃいますけれど、私たちにしてみたら命の道路なんです」

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