米朝首脳会談に翻弄される日本の「立ち位置」 朝鮮問題で韓国や中国に先を越されている

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事態が二転三転する米朝首脳会談。本当に開催されるのか(写真:Kim Hong-Ji/ロイター)

ドナルド・トランプ米大統領が急遽シンガポールにおける金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談を中止するというニュースがソウルと東京に届いたのは5月24日の深夜のことだった。韓国では文在寅政権がショック状態に陥った一方、日本では、そのニュースに祝杯をあげた人がいるかもしれない。なにしろ、安倍晋三政権は、6月12日にシンガポールで行う予定だった米朝首脳会談は、日本の安全保障上の利益、および拉致問題を解決したいという日本の望みを無視する合意につながる可能性が高いのではないかという懸念を抱いていたからだ。

しかし、安倍首相が喜ぶのは時期尚早だった。わずか数時間後には、再び首脳会談を開く方向に流れが変わった。それは、北朝鮮で長く核交渉を担ってきた金桂冠第一外務次官の反応や、トランプ大統領の戦略に対する肯定的な反応からも明らかだ。

文大統領と金正恩委員長も26日に緊急会談を開き、米朝首脳会談をどのように復活させるかを話し合っただけでなく、トランプ大統領の決定内容にかかわらず、自分たちは南北の約束に向けて歩みを進める準備ができていることを示した。28日夜には、米朝首脳会談の前に、トランプ大統領と安倍首相が会談を行うことで一致した。

トランプ大統領、本当は会談を切望していた

米朝首脳会談を中止するというトランプ大統領の決定は単に、米政府内の大部分のアナリストなどがすでに理解していたことを反映したものにすぎない。すなわち米国が目標とする完全な非核化と、北朝鮮による派手な「非核化ショー」の間に埋められない隔たりがあるのだ。ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が、1段階あるいは2段階にわたる完全非核化を意味する「リビア・モデル」に触れ、北朝鮮がその考えを拒絶したことは、この根本的な相違点が明白になった。

今回、再び現れたトランプ大統領の気まぐれと脅迫気質は、今後とも変わることはないだろう。が、これは問題ではないかもしれない。一連のツイートを見る限り、トランプ大統領は、衝動的にキャンセルしてしまった首脳会談を実は切望していたように見える。

「トランプ大統領を説得するのは難しくはない」と元国務省高官で、北朝鮮交渉に関して経験豊富なエバンス・リビア氏は予測する。会談中止を発表してからこれまで「それ以上の行動を起こしていないのであれば、トランプ大統領は金正恩委員長と同じくらい、あるいは彼以上に会談開催を望んでいた、ということだ」。

北朝鮮と米国の交渉は再開している。しかし非核化に関する隔たりが縮まらない限り、首脳会談は名ばかりのものとなるだけだろう。金正恩委員長は核兵器を放棄する準備をしているように見えないが、トランプ大統領にしてみれば、首脳会談が自身の勝利を宣言するテレビ映えするドラマになるのであれば、しぶしぶ「それ以下の条件」を受け入れる準備ができているのかもしれない。

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