米朝首脳会談に翻弄される日本の「立ち位置」 朝鮮問題で韓国や中国に先を越されている

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今週後半には、南北高官会議が再開されることになっており、今や両国ともに、トランプ大統領が決める最終的な実行内容が何であろうと、長期的な経済協力と和平会談の計画を前進させる準備ができている。金正恩委員長は、年初から一貫してそうだったように、自らを巧みに位置づけ、韓国と米国との間の微妙な緊張関係を利用してきた。開城(ケソン)工業地区の再開をはじめとする南北間の初歩的な経済的関与はアジェンダに上がっており、ここから一気に加速する可能性もある。

中国は会談中止騒動について、その責任の矛先を米国の行動に向けている。トランプ大統領は、金正恩委員長が「敵対的な」態度に転換したと主張、この転換は金正恩委員長、中国の習近平国家主席という両氏が中国・大連で2回目の会談を行った後に起こったとして、習主席こそが背後にいる人物であると非難した。こうした批判は、難航する中米間の貿易交渉とも絡んでおり、中国が北朝鮮を従わせるのに失敗したことにより、米国が貿易面でさらに強硬路線をとるようになるとの憶測も呼んでいる。

一連の動きで中国が手にした「報酬」

しかし、中国が、米朝首脳会談を中止させることで利益を得る、という見方は根拠がないように思える。中国政府は首脳会談が行われることによる朝鮮半島における緊張緩和に大きな期待を寄せているからだ。

とはいえ、中国政府関係者は今回の件で、大きな「報酬」を手に入れた。金正恩委員長と北朝鮮と、中国との関係が復活したということだ。複数の報告によると、中国は北朝鮮に対する貿易の取り締まりをすでに緩和し始めている。北朝鮮の労働者は、中国北東地方へ戻り始め、製品輸送用の電車が橋を渡り、北へ向かうのが確認されている。

米国の政治アナリストの中には、北朝鮮を交渉の席に着かせるために厳しい制裁を維持するという米国の政策はすでに事実上失敗していると考える向きもある。元国務省員高官のリビア氏は「中国は引き続き制裁を実施するだろうが、もはや本気でやろうとは考えていない。米国政府内部の情報源は私に『最大圧力』はすでに最大限の状態ではない、と言っている」と話す。

しかし、こうした情報や状況のいずれも、日本政府を安心させるものではない。安倍政権はすでに、トランプ政権の予想不可能な行動への対応に悪戦苦闘している。貿易問題では、新たに日本からの自動車輸入に大幅な関税を賦課するという脅しをトランプ大統領はしている。長年の同盟国に対するこうした横柄な態度を考えると、めまぐるしく変わる朝鮮半島問題についても、何一つ確信できるものはない。

が、1つだけ避けられない結論がある。それは、トランプ大統領が「優れたディールメーカー」であるとは、日本では誰も信じていないということだ。それどころか、ニューヨーカー誌のスーザン・クラーク氏の言葉を借りれば、トランプ大統領は「ディールメーカーよりディールブレイカーとしてのほうが優れている」ことは明白であり、日本でもそのように信じられていると言っていいだろう。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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