断言!「香港の競馬は世界でいちばん面白い」 日本の競馬に「足りないもの」は何か

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また香港競馬は民営の強みを生かし、スイスの時計メーカーであるロンジンやオーデマピゲ、ドイツのBMW、香港のHSBC銀行といったグローバルなスポンサーともうまく連携し、レースを盛り上げることに成功している。この分野については、日本の競馬も、もっと開拓できる余地があるはずだ。

余談ながら、意外だったのは競馬専門紙が10種類以上あること。街角では競馬情報誌のようなものも売られていた。日本では関西の老舗予想紙「競馬ニホン」が廃刊するなど、紙の力が急激に衰えているが、香港ではいまだ根強い支持を受けている。競馬関連の印刷物の量は競馬熱、競馬文化の高さを表すとも言われており、この点でも香港競馬の懐の深さを感じた。

日本の競馬がもっと魅力的になるための条件

ひるがえって日本の競馬はどうか。競走馬、種牡馬、調教技術のレベルも年々高まり、規模、賞金、参加人数、システムといった面で世界最高水準にあるのは紛れもない事実だ。野球に例えると「メジャーリーグクラス」と十分に言える。

一方で、エンターテインメント性や国際競争力という点では大きな改善の余地があるはずだ。例えば「ジャパンカップには世界の人気馬が来てくれなくなった」といわれて久しいが、「ジャパンカップ」という一つのレースの価値だけではなく、香港のように「ジャパンカップというイベントの商品力」をさらに高められるはずだ。マーケティング(市場創造)力が問われている。

スペシャルウィークで日本ダービーを制し、芝とダートの「二刀流」で大活躍したアグネスデジタル、さらにはタンスパートナーなどで海外に果敢にチャレンジした国際派の白井壽昭元調教師はこう話す。

「日本の競馬は、エンターテインメント性をもっと出してもいい。せっかくだから(大きなレースである)G1をあまり小出しにせず、ジャパンカップのときに複数のG1をまとめてもいい。オーストラリアのメルボルンカップや、UAEのドバイワールドカップにしても、カップと名のつくレースは『お祭り』。しかも、いろいろな距離のG1レースがあれば、馬主や調教師も『じゃあ、馬を使ってみようか』となる」。白井氏は続ける。「香港はホスピタリティーにおいても外国馬を呼ぶのが本当に上手。馬主や調教師などの関係者が『また行こうか』という気にさせてくれる」。

2017年から海外馬券の発売が始まり、今後もヒト、モノ、カネの国際交流はますます盛んになっていく。アジア初の国際競走としても名高いジャパンカップや他のG1競走が「日本ローカル」になってしまっては、もったいない。

間もなく若駒の祭典、日本ダービーを迎えるが、日本の競馬が名実ともに世界一となるためには、まだ課題がある。それにつけても思い出すのは1989年のジャパンカップ。世界の猛者が一堂に会し、今も語り草になっている伝説の一戦だ。スタートから「殺人ラップ」が刻まれたうえに、最後はニュージーランドから参戦したホーリックスと日本のオグリキャップが死闘を演じた。あのグローバルなワクワク感を常に日本で味わえるようにすることは、決して夢物語ではないはずだ。

山本 智行 フリーランスライター

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やまもと ちこう / Chikou Yamamoto

1964年岡山生まれ。スポーツニッポン新聞社の記者として競馬、プロ野球、ゴルフ、ボクシング、アマ野球を担当。その後、東京、大阪、福岡のレース部長などを経て、現在フリーランスライター。ギャンブル全般に精通、特にプロ野球界、公営ギャンブル界に幅広い人脈を持つ。趣味は映画鑑賞、観劇、旅打ち、ちなみにB'zの稲葉浩志とは中高の同級生。

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