平成は「自己否定と変身願望」の30年間だった 自家撞着の改革をやめて「土着の知」に戻れ

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佐藤:やはり、土着性を持った政治家がいなくなったことが大きいと思います。田中角栄には名言がいろいろあるものの、特に好きなのが「吹雪のときはしばし待つ。雪は人間を全部、運命論者に変える」。逆境のときはじっと耐えるということですが、豪雪地帯で育った人間ならではの言葉でしょう。(たとえば)鹿児島の政治家が、このフレーズを口にする光景が想像できますか?

田中さんは学歴がなかった代わり、越後の風土という基盤を持っていた。これだって、いやこのほうが、立派な教養と呼ぶに値します。そういう人が1970年代初頭、「日本列島改造論」を唱えた。

その約20年後、小沢一郎さんが『日本改造計画』という、よく似たタイトルの本を出す。ところがこちらは、日本の後に「列島」がついていません。改造されるのは日本であって、日本列島ではないのです。

文字どおり、議論から地理的・物理的な基盤がなくなってしまった。これでは土着性も何もありません。田中さんと小沢さん、あるいは昭和と平成の違いは、「風土の喪失」が進んだことにあるのではないでしょうか。

:1つには選挙制度を変えてしまった影響もありますよね。かつての中選挙区制の時代には地域のボス的な人たちが、しっかりした後援会組織を持ってやっていた。地域の政治地盤に根ざしていなければ当選できなかった。それが小選挙区制になったら、落下傘候補みたいな人でも、公認を受ければ当選できるようになってしまった。

佐藤:小選挙区制になったのは、自民党が下野しているときですね。政権交代が起こりやすいよう、あえて不安定なシステムを作ったものの、これがみごとに裏目に出た。平成の改革は、本当にロクな結果になりません。

「土着の政治」で日本経済は復活する

中野:関連して言いたいのは、「格差を縮小して、地方を大事にする土着の政治をやれば、経済は今よりも絶対に成長する」ということです。経済が東京に一極集中すれば、東京に立地した企業は効率がいいかもしれませんけれども、日本経済全体として効率がいいかどうかは怪しい。格差が拡大すれば、消費性向が高い中・低所得者の人々が貧しくなるわけですから、国全体の需要は伸びなくなるからです。

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田中角栄の列島改造じゃないですけれども、1960年代、1970年代までの日本はなんとか地方を豊かにしようとして道路や鉄道を整備したり、あるいは累進課税によって格差を縮小しようとしたりしていた。そうやっていたときのほうが経済成長率は明らかに高かったわけです。平成の一連の構造改革は、経済成長を目指してやったことですが、しかし、実際に起きた結果は、経済が成長しなくなったということでした。彼ら改革派が否定してきた昔の格差是正政策のほうが、実は経済を成長させるのです。

このように、平成の改革の失敗は明らかなのですが、しかし、改革派は「だからといって昔に戻ればいいってものではないだろう」と、考え方を改めようとはしませんね。しかし、政治も経済も、昔のほうがよかったという事実は否定できない。ならば、最低限、改革の流れを止めることから始めてはどうでしょうかね。

久保田 正志 ライター

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くぼた まさし / Masashi Kubota

1960年東京都品川区生まれ。経済系フリーライターとしてプレジデント社・東洋経済新報社・朝日新聞出版社などで取材・執筆活動を行っている。著書に『価格.com 賢者の買い物』(日刊スポーツ出版)。ペンネームで小説、脚本等フィクション作品も手がけている。

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