平成は「自己否定と変身願望」の30年間だった 自家撞着の改革をやめて「土着の知」に戻れ

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佐藤:くだんのメンタリティが、民族性といった「先天的」なものか、明治以来、近代化・欧米化を進める過程で学習した「後天的」なものかは、非常に面白いところですね。

「国をリセットする」のは、本来恐ろしい発想のはずだ

中野:日本人の変身願望では、「何に変身したい」という未来志向よりも、「とにかくこれまでの自分を消したい」という自己否定のリセット願望が強いようです。今の安倍総理も「日本をリセットする」とニューヨークで言ったことがあるし、橋下徹元大阪市長も「グレートリセット」と言っていた。昨年も小池百合子都知事が「リセットする」と唱えていました。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家、作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』(1989年)で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞。『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋、1992年)以来、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。主な著書に『未来喪失』(東洋経済経済新報社)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『震災ゴジラ! 戦後は破局へと回帰する』(VNC)、『右の売国、左の亡国』(アスペクト)など(写真:佐藤 健志)

国家や社会をリセットするというのは本来、恐ろしいことのはずです。もし本気で日本をリセットしようとしたら、たとえば、日本語という言語そのものを変えてしまうということにもなる。あるいは、ヨーロッパがそうなりかかっていますが、移民を大量に入れて国民性を入れ替えるといったことになる。「国をリセットする」というのは、そういう危険な革命思想です。

ところがみんな、そういった過激な言葉に恐怖を覚えることもなく聞いている。政治家が「リセットする」と言ってくれると、なぜかうれしくなるというか、いい響きと感じる。そういう感性が今の国民の中にあるんでしょうね。

佐藤:日本語の廃止は明治から主張されています。むろん、敗戦後にも出ました。大抵は英語にしろ、という話になるんですが、志賀直哉は1946年、「フランス語に変えろ」と説いています。世界でいちばん美しい言葉だからとのことながら、ならばご本人はフランス語に堪能だったのかというと、実は話せなかったらしい。

1990年代、インターネットが普及したときも出たんですよ。いわく、日本語の文字は全角でないと読みにくい。ひきかえアルファベットは半角で大丈夫だ。すると2倍の情報を伝達できるわけで、このままだとデジタル時代、欧米に対抗できなくなってしまう。だから英語にしろ!

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