平成は「自己否定と変身願望」の30年間だった 自家撞着の改革をやめて「土着の知」に戻れ

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佐藤:平成の30年間は、自己否定を系統的にやってきた時代と呼べるでしょう。自己否定に対する日本人のこだわりは、前にも指摘したとおり、今に始まったものではありません。植民地化の不安におびえつつ、近代化をスタートさせた明治の時代にまで(少なくとも)さかのぼることができますが、それが過熱・暴走したのが平成の改革ブームだったわけです。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院准教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士課程(M.Phil)修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

:2012年に自民党に政権が戻ったときの総選挙では、「日本を取り戻す」というスローガンが打ち出され、そこに有権者が引かれた面があったはずです。まさしく古い自民党的な、改革じゃない方向に行ってほしいと思って投票した人たちが多かったのではないか。おそらくそのだいぶ前から日本全体に「改革疲れ」が出てきていたと思うんです。

中野:それが民主党の人気がなくなった理由ですよね。政権交代そのものがまさに改革でしたから。細川政権のときもそうだった。改革派が言っていた「こうすればいいのだ」という政策を実際に実行するとどうなるのか。改革派が悲願としてきた政権交代を実際にやってみたら、どうなるのか。その現実を、非自民党政権が実際に見せてしまった。

佐藤:第2次安倍内閣誕生以後の選挙結果を見ていると、今や国民は55年体制の復活を求めているとしか思えません。民主党政権への幻滅もあって、「やはり自民党でなければ、まともな政権運営はできない」という結論に達しているのではないか。

野党は政権奪取なんて洒落たことは考えず、いわゆる「3分の1勢力」、すなわち改憲発議を阻止できるだけの存在であれば十分という次第。もっとも最近では、これすら崩れましたね。「野党は単純に不要」という、55年体制以上に55年体制的な心情が生まれている気配を感じます。

:以前、中野さんは「今こそ古い自民党政治を!」という文章を書いていましたね。あれは「いつか来た道に戻ろう」という話ですね。

中野:ええ。ただ政治家でも官僚でも改革派の人たちはみな、中選挙区制時代の政治家や政治のやり方をものすごく嫌っています。ほとんど親の仇のようです。今の政治家でトップになっている改革派の人たちは「あの頃は本当に汚らしい金権政治をやっていて、あんなのは二度といやだ」と口をそろえますね。

おそらくビジネスマンもそうなんじゃないでしょうか。今は今で問題かもしれないけれども、自分が入社した頃の会社のあり方は本当に嫌で、なんとか変えなければいけなかったんだというような、ルサンチマンを強く感じます。

糾弾を受け入れる懐の深さ

:今の日本人はたとえば田中角栄のような、意見の異なる人も受け入れて、豪放磊落(ごうほうらいらく)に物事を進めるリーダーのイメージを持てていない感じがするんです。現政権にしても意見の近い人間ばかりで固めているし、「排除」と言った小池百合子にしても、政治家としては冷たい印象がありますね。

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