米民主党がブチ上げた「雇用保証」とは何か 政府が働きたい人の雇用を保証する大胆策

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民主党のなかにも、雇用保証が抱える問題点を警戒する声はある。実際に、雇用保証を目指す方向性は同じだとしても、どの程度の内容を目指すかについては、民主党内の意見は割れている。ブッカー議員の提案は、まず対象地域を限定した試験的な取り組みを行い、本格的な実施に備える内容となっている。全米での制度導入を目指すCBPPのモデル案とは、一線を画している。

こうした立場の違いは、雇用保証の背景にある政治的な思惑と無縁ではない。民主党のなかには、次の大統領選挙で勝つためには、単にトランプ大統領の行状を批判するだけでなく、「目玉となる大胆な政策を示す必要がある」との声がある。雇用保証への賛同者が相次いでいるのは、起死回生の一策としての期待が存在する。だからこそ、実現可能性を気にするよりも、提案の大胆さを求める勢いがある。

民主党は政治的な「賭け」を迫られている

背景にあるのは、2016年の大統領選挙の反省だ。当時の民主党は、トランプ大統領に「雇用を守る党」としてのお株を奪われた。中西部の白人労働者など、いわゆる「忘れられた人々」の票は、保護主義的な通商政策などにより、なりふり構わず雇用回復を約束したトランプ大統領に流れた。クリーン・エネルギーの普及といった構造改革を通じた次世代の雇用作りを主張した民主党の提案は、結局インパクトに欠けた。

民主党には、「白人労働者を取り戻すには、雇用しかない」という計算もある。白人労働者がトランプ大統領を支持した背景には、雇用回復の約束だけではなく、不法移民批判のような、マイノリティへの厳しい言動があった。しかし、マイノリティを支持基盤とする民主党にとって、彼らを裏切る路線変更は禁じ手である。人種を超えた支持基盤を取り戻すには、雇用面での大胆な提案に突破口を求めるしか選択肢はない。

試験的な実施のような提案にとどまれば、雇用保証が持つ政治的なインパクトは薄れる。かといって、成功の保証がない政策を闇雲に提案すれば、民主党の信用が失われかねない。実際、雪崩をうつように雇用保証への支持が広がる民主党に、過激に「小さな政府」を求めたティーパーティ運動にかき回され、荒唐無稽な政策を提案するに至った共和党の二の舞をみる向きもある。

民主党にとって雇用保証は、起死回生の一策となるのか。それとも、墓穴を掘るだけの結果に終わるのか。危険な「賭け」に踏み切る度胸が、試されているようだ。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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