米民主党がブチ上げた「雇用保証」とは何か 政府が働きたい人の雇用を保証する大胆策

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雇用保証では、単なる働き先だけではなく、保証される雇用の質にもこだわっている。雇用保証で提供される雇用には、貧困ラインでの生活が可能となるだけの賃金が与えられる。同時に、医療保険や有給休暇といったフリンジ・ベネフィットを受けることもできるという。

第一の狙いは、非自発的な失業の解消である。米国は歴史的な低失業率にあるが、働きたい人がすべて働けているとは限らない。技能のミスマッチなどを背景として、職探しをあきらめている人や、転職に手間取っている人は少なくない。また、地域によっても、失業率の高低には濃淡がある。さらには、白人よりも黒人の失業率が恒常的に高いなど、就職への構造的な障壁がある可能性も指摘されている。

潜在的な利用者の数は約970万人

雇用保証は、全米の非自発的な失業者に対して、連邦政府が雇用を提供することを目指す。CBPPでは、潜在的な利用者の数を、約970万人と予測する。連邦政府の職員数が約2100万人であるから、その半分弱に相当する人数である。

雇用保証に期待される第二の効果は、景気の安定化だ。一般に、景気が悪化した場合に政府が取れる対応策としては、景気対策を発動するといった拡張的な財政政策がある。しかし、景気対策を実現するためには、立法作業などの政治的なプロセスを経る必要がある。タイミングを逃さずに、適切な規模の財政政策を発動できるとは限らない。

雇用保証の場合は、景気が悪くなれば制度への参加者が増えるために、特段の政策決定を行わなくても、自然に財政政策が拡張的になる。景気が好転すれば参加者は減少するため、必要以上に拡張財政を引きずる心配もない。言い換えれば、雇用保証は、強力な景気安定化装置(ビルトイン・スタビライザー)になりうる。

第三の効果は、労働者の地位向上である。雇用保証で提供される職では、賃金水準やフリンジ・ベネフィットなどの点で、一定の質が保たれる。そのため民間企業は、雇用保証で定められた水準を下回る条件では、雇用を確保できなくなる。雇用条件の最低ラインが雇用保証によって確保される構図であり、独占的な地位を利用するなど、労働者に不当な労働条件を強いてきた企業は、待遇の改善を迫られる。

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