スマホが脳の発達に与える無視できない影響 脳トレの川島教授が2つの実験結果から分析

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脳も身体も積極的に使わない状態を、ヒトは楽で便利だと感じる。そして、ヒトは楽で便利なものに価値を見いだし、喜んでおカネを払ってきた。文明の発達に伴って、人的、金銭的さまざまなリソースが投入され、楽で便利な状態が追求され続けてきた。現在の私たちは、その恩恵に大いに浴している。

しかし、そんな生活の代償として、失ってしまっているものはないだろうか。

「使わなければ衰える」という鉄則

私がこれまでの研究で大切にしてきたのが、“Use it, or lose it”という考え方だ。“使うのか、さもなくば失うのか?”というのが直訳であり、もともとは身体機能の加齢現象を語るときに使われ出した表現である。普段から意識的に運動を続けていれば、身体機能は晩年まで保たれる。反対に、まったく運動をしないで過ごしていると、たとえ若い人であっても身体機能はすぐに衰えてしまうというのがわかりやすい例だろう。

この考え方は、現在では脳機能に関しても適用されている。毎日の生活の中で積極的に脳を使わないと、脳機能はどんどん低下することがわかっているのだ。

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私は、「脳トレ」の開発をはじめ、これまで産学連携研究において、製品やサービスを使用したときにきちんと前頭前野を使うことができているのか、“use it”の状態を作り出すことができるのかという点を最も大切な評価と位置づけてきた。

前頭前野が発達していることが、ヒトの脳の最大の特徴であり、前頭前野には人間ならではの「こころ」の働きが局在している。子どもの脳の健全な発達を支援したい場合も、高齢者の脳をいつまでも健康に保ちたい場合も、日常生活の中で前頭前野をきちんと使うことを支援できるものに価値があると考えてきた。

しかし、便利なスマホを頻繁に用いると、コミュニケーションも対面型のリアルなコミュニケーションの機会が減り、情報処理も自分の脳を使う頻度が減ることになる。洪水のような大量の情報を受動的に受け取り、検索や変換もスマホが自動的に予測を出してくれる。そんな日常生活の中で、発達期の子どもたちが脳を使う機会がどんどん奪われることになるのだ。前頭前野を使う“use it”の機会が減り、“lose it”が進んだ子どもたちは、将来どうなるのか。そのことを私たちは真剣に考えなければならない時が来ていると思う。

川島 隆太 東北大学加齢医学研究所 所長

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かわしま りゅうた / Ryuta Kawashima

1959年生まれ。東北大学医学部卒。同大学大学院医学研究科修了。医学博士。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、同講師を経て、東北大学加齢医学研究所教授。2014年から現職。主な受賞として、2008年「情報通信月間」総務大臣表彰、2009年科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞」、2009年井上春成賞。2012年河北文化賞。査読付き英文学術論文400編以上、著書は『スマホが学力を破壊する』『さらば脳ブーム』『オンライン脳』など、300冊以上。

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