スマホが脳の発達に与える無視できない影響 脳トレの川島教授が2つの実験結果から分析

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どうもスマホを使うと前頭前野は働かないことがわかってきた。ちなみに、使用時に前頭前野に抑制がかかるのはスマホに限ったことではなく、ゲームやテレビ視聴も同様である。そして、前頭前野に抑制がかかるゲームとテレビに関しては、健康な児童・生徒の脳発達の経年変化をMRI計測により観察した結果、どちらも長時間プレー・視聴すると言語知能の発達に悪影響を及ぼすとともに、脳発達、特に前頭前野の発達に遅延が生じることが明らかになっている。

そうした研究の蓄積を踏まえると、スマホ使用に関しても、長時間使用は前頭前野の発達に悪影響を及ぼしていると推測されるのだが、私の考え過ぎだろうか。

ITに脳の肩代わりをさせる代償

さまざまな脳機能計測実験を繰り返すうちに見えてきた事実がある。

対人コミュニケーション場面での脳活動計測を行ったところ、実際に誰かの顔をみて話をすると前頭前野は大いに働くが、テレビ会議システムを使って話をさせても、前頭前野は働いてくれないのだ。

また、文章を書くときの脳活動計測では、手書きで手紙を書くと前頭前野はたくさん働くのに、パソコンや携帯電話で手紙を書かせても前頭前野はまったく働かないという結果が出ている。自分の手指を使った知的作業(この場合は手紙の作成)は前頭前野を活性化させ、ITを使った知的作業は前頭前野を抑制させている。スマホ使用は後者に近いと言えるだろう。

ITを使うことで、なぜ前頭前野が働かなくなるのか。その理由は案外単純かもしれない。文章作成時にパソコンや携帯電話を使う場合、漢字を思い出し、それを文字として書いて表現するという行為をする必要が一切ない。仮名を何文字か入力し、変換して出てきた漢字が正しいかどうかを判断すればよいだけである。一方、手書きであれば、当然こうした一連の行為をすべて自分の脳を使って行う必要がある。

対人コミュニケーションの場合はどうだろうか。テレビ電話を使うと、その場に相手がいないので気を使う必要もあまりなく、遠くの人にわざわざ会いにいく必要もないので、非常に楽で便利だ。一方で、すぐ目の前に相手がいると、相手の気持ちを察知して、時には先回りして気を使い、「空気を読む」ことを通してコミュニケーションの場を円滑にしようと自然と努力を行うことになる。

これは、ヒトしか行わない行為であり、前頭前野の機能をフルに必要とする。しかしITがこうした空気を読む努力を不要にしてくれると、コミュニケーション時にわざわざ前頭前野を使う必要がなくなるのだ。

便利なIT機器はヒトの脳が行うはずであった行為の肩代わりをしてくれる。だから、ヒトはその分の脳のリソースを使わなくても作業ができたと考えることができる。

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