ヤマハ「新型管楽器」はなぜ日本でウケたのか 見た目はリコーダー似でも音色はサックス風

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しかしサックスは円錐型の複雑な形をしているからこそ、特有の音色を可能にしている。ヴェノーヴァがシンプルな構造でサックスに音を近づけられた背景には、1977年に日本音響学会で発表された論文がある。「円筒を分岐させることで、円錐型をしているサックスの音色に近づけることが出来る」という論文の内容が1992年頃にヤマハで発見され、面白い理論だと技術研究所内で長らく温められてきた。

ヴェノーヴァの材質はプラスチックの一種、ABS樹脂。耐久性に優れ、水洗いも可能だ(記者撮影)

2009年頃、中島氏がこの理論を知り、「シンプル・安価・メンテナンス不要」という特性を兼ね備えた楽器、というコンセプトが誕生。ヴェノーヴァの開発が始まった。40年前に生まれた理論を元にプラスチックの管を分岐・蛇行させ、サックスの音に近づけようと取り組んだ。手軽さにこだわり、本体と付属のリードには、軽量で耐久性に優れるプラスチックのABS樹脂製を採用した。

「手軽な楽器」開発に強くこだわる

サックスを吹くハードルの1つに、家で演奏するには音が大きいことがある。研究段階で音量を小さくする構造も検討したが、1オクターブ程度まで演奏音域が狭くなる弊害が生まれた。1オクターブのみでは演奏できる曲が非常に限られる。そこでヤマハは独自の解析技術を駆使して、本体内側の直径のサイズや音孔(トーンホール)を設計。リコーダーとほぼ同じ2オクターブの音域を確保することができた。

演奏者の年齢や演奏場所を選ばずに使える「カジュアル管楽器」というコンセプトに沿って開発を進めた結果、トレードオフで失ったものもある。楽器はこれまで、より発音が均一になるよう改良が重ねられ進化してきた。しかしヴェノーヴァでは、真鍮などを本体に使った金管楽器のように正確な音程を手に入れるのは難しかった。

また、小型化すると穴をしっかりおさえて音を出すのが難しくなってしまった。開発段階では、音響のシミュレーションを繰り返しながら、設計を細かく見直したが、こうした課題を100%解決することは困難だった。開発陣は迷ったが、「手軽さ」というコンセプトをぶれさせず、可能な限りコンパクトで、楽器として必要な機能を発揮できる最大のものを作ることに決めた。

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