池上彰が解く「君たちはどう生きるか」の真髄 80年前の児童書が今もなお支持される理由
しかし、「おじさん」から返ってきたのは意外な答えだった。
「コペル君、君の考えは間違っているぞ! 君は勇気を出せずに大事な約束を破ってしまった。苦しい思いをしたから許してもらおうなんてそんなことを言える資格はないはずだ」
さらに「おじさん」はコペル君にこんな言葉を送る。
「コペル君、今君は、大きな苦しみを感じている。なぜそれほど苦しまなければならないのか。それは君が正しい道に向かおうとしているからなんだ」
コペル君は自分の過ちを受け入れ手紙を書いて謝罪することにした。
本がメンター役を担ってくれる
「おじさん」はコペル君に多くのヒントを与え、コペル君もまたそれらを素直に受け取る。「それは、『おじさん』とコペル君が「斜めの関係だからにほかなりません。『おじさん』の言葉はどれも『まっとう』ですが、親子という近い関係で、親から『まっとう』なことを言われたところで、子は聞く耳を持つでしょうか」(池上氏)
池上氏は、同作は「親から子へのプレゼントとしても売れている」と分析する。まずは大人が読んでみて大きな気づきを得る。そしてわが子にこそ読んでほしいと願う。しかしメッセージがあまりに「まっとう」であるために、面と向かって伝えるのは難しいと考える。だからこそ本をプレゼントして、「読んでほしい」とだけ伝える。
実は、池上氏が原作と出会うきっかけをつくってくれたのも父親だったという。
「ある日、父親が『読め』と言って買ってきてくれたんです。親が薦める本など……と最初は反発しました。しかし当時はテレビゲームなどない暇な時代です。なんとなく読み始めるとこれがすごく面白くて、すぐに夢中になりました。父も私に伝えたいことがあったからこそ、本を託してくれたのではないでしょうか」
社会でも同じことが言える。たとえば上司と部下の関係だと本音で話せないことも、利害関係のない隣の部署の先輩になら腹を割って語り合えることがある。「斜めの関係」は精神的な指導者、つまりメンターの役割を担ってくれるのだ。
作中に、池上氏が印象に残っている一節があるという。
“僕たち人間は、自分で自分を決定する力を持っている。だから誤りを犯すこともある。しかし、僕たち人間は、自分で自分を決定する力を持っている。だから、誤りから立ち直ることもできるのだ”
私たちは不透明な時代を生き抜かなければならない。世界中のあちらこちらで戦争や紛争が起きており、そしてシリア内戦は今なお解決の糸口が見えていない。
しかし争いを決めたのも始めたのも人間であり、また人間だからこそ誤りから立ち直ることもできる。では、世の中のために今私たちにできることとは何だろうか。
「君たちはどう生きるか」
その答えは、個人の内側にある。
(構成:両角 晴香/ライター)
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