日本人が知らないシリア難民の超過酷な現実 子どもたちのために危険を承知で海を渡る

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9年生(日本の中学3年生)では、自分のなりたい職業になっている人にインタビューをしてみようという内容で行いました。学校の先生になりたいという子は、「どうしてなれたんですか?」「何をしたらなれますか?」と先生に聞いてくるという宿題でした。「シリアにいた時にお父さんお母さん、ご近所の人がやっていた仕事をインタビューするのでもいいですよ」という話でプリントを配ったのですが、実は回収率が良くありませんでした。よくよく話を聞いてみると、「お父さんが、『もうその仕事できないし』って言っていた」と。

©︎国境なき子どもたち(KnK)

:聞くのも酷ですよね。

松永:子どもが空気を読んで聞かなかったのかもしれません。「お母さんが昔やっていた仕事の話を聞こうと思ったけど、あんまり進んで話をしたがらなかった」という子もいて、なるほどなと思いました。実際に私たちがキャリア教育の中で子どもたちの様子を見ていたら、夢はあるけど、具体的に何をしたらいいのかわからないという子どもたちもたくさんいました。実は、まだ身近なロールモデルが見つかっていません。自分たちで探すということはやってもらったのですが、例えば、キャンプの中から大学受験をして大学に通えている人の話を聞かせられる機会があればいいなと。

:実際どうなのですか? キャンプから大学に行くケースもあるのですか?

松永:一応あります。でも、大学試験に行くまでに生き残れない人が多くて、だいたいみんなドロップアウトしてしまいます。でも全くいないわけではなく、一定数はいます。

タカハシ:もちろん奨学金制度みたいなものもあるんですよね?

松永:はい、ありますね。特にシリア人に向けた奨学金制度というものが、外国からのファンドで出ています。

学校の先生からの暴力

松永:学校の様子を見ていると、どんどん問題が出てきているのが分かってきました。

:どんな問題ですか?

松永:学校の先生からの暴力です。これは本当に困った話で、ヨルダンの集まりでこの話をすると、私たちの事業はすぐに停止させられます。彼らは「暴力はない」と言っているので。でも、私たちは実際にこの目で見ているという状況です。これは、人材が不足しているというのもありますし、研修が十分でないということもあります。

:学校の先生としての教育を受けていない人も、臨時で学校の先生になっているんですよね。

©︎国境なき子どもたち(KnK)

松永:はい。これは水道とガスのホースなのですが、小学1年生の子がこれを振り回して学校にやってくるんです。「なんで使うの、危ないじゃない。お友達にも当たるよ」と、そのホースを取り上げるのですが、ものすごく泣くんです。「どうしたの」と聞くと、「これは先生にあげるんだ」と言うんです。どういうことかというと、先生が授業中にこのホースとかで机を叩いて子どもたちを静かにさせているんです。先生が「ホース、誰かくれよ」と言うと、「はい、先生!」と持ってきたホースを渡しに行くんです。

:先生の気を取り繕おうと思って、渡しているということですか?

松永:そうなんです。私もかなりショックで本当に困ったなと思っているんですが、ヨルダン政府は「こんなことやっていない」と。外部の団体が介入しても、問題をもみ消されるか私たちが潰されるかのどちらか。私たちができることは、子どもたちが持って来たものを片っ端から回収すること。1週間で20本くらいのホースが取れることもあります。遠くてお客さんも来ず、外部の目が届きにくいんですね。

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