日本人が知らないシリア難民の超過酷な現実 子どもたちのために危険を承知で海を渡る

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:極限状態だったんですね。

©︎André Makino

牧野:気持ちはわかるんです。僕も1カ月ずっとそこにいて、「こんなところ、1日でもいたくない」と思いました。1回の食事のたびに、食料配給のために3〜4時間並ばなければならない。本当に極限状態で。「国境が開く」という希望だけをもとに、彼らは生活をしていました。それを、軍事ヘリも投入し、マケドニア軍が鎮圧していました。

:自国へ戻るという選択はないですもんね。命からがら逃げてきて。

牧野:イドメニキャンプは、2016年5月24日からギリシャ軍の強制排除があり、完全に閉じられました。強制排除された難民の人たちは、バスに乗せられてギリシャ軍が運営しているキャンプにそれぞれ分けられました。しかし、ギリシャも財政難がずっと続いているため、結局イドメニにいた時と変わらない状況が続きました。

「なぜここまでしてヨーロッパを目指すのか」、一度聞いてみたことがあります。クルド系シリア人が言っていたのがすごく印象に残っています。「もし自分たちだけだったら、絶対にこんなことしない。私たちはシリアに留まった。なぜ一途にヨーロッパを目指すのかというのは、子どもたちの未来を作るためだ」と。すごく衝撃的でした。イドメニキャンプには最終的に1万4000人の難民がいたのですが、半分以上が子ども。そこら中に子どもが走り回っているような環境でした。

©︎André Makino

キャンプが閉鎖される直前、生後2カ月のジャスミンちゃんに会いました。イドメニキャンプ内で生まれた子です。お母さんは10代、お父さんは20代です。彼らももちろん「子どものために」ということを話していて。ジャスミンちゃんは生まれながらに難民という状況にある一方で、僕は日本の綺麗なベッドの上で生まれ、美味しいものを食べ、不自由なく教育を受けてきました。この差は何なんだろうと。

:生まれる場所は選べないですからね。

牧野:僕はこの経験があったから、この後ヨルダンにも行こうと決めました。彼らと気持ちを合わせられる人を作っていきたいなと思っています。

:牧野さん、ありがとうございました。

ザアタリ難民キャンプでは

:ヨーロッパを目指す動きとは別に、シリアの隣国ヨルダン側のザアタリ難民キャンプでは今どんな日常があるのか、そのような支援が必要なのか、KnKの松永晴子さんにお話を伺っていきましょう。

松永:よろしくお願いします。まず、UNHCRによると現在ヨルダンに住むシリア難民は約66万人です。しかし、難民登録をしておらず、この人数に含まれていない方も実際にはいます。

:全員が難民になるわけではないんですよね。資産を持っていて、自力で逃げて生活できる人もいらっしゃいますよね。

松永:そうですね。しかし、内戦前にお金があった方たちも、当時は難民登録しなかったけど、長らく続く今の状況でどんどん資産を使い続けてしまったり、送金をしてもらっていたけど送金が届かなくなってしまったり、という方も出てきています。

:内戦が勃発すると、通貨が暴落するということもありますよね。

松永:シリアは実際に大暴落している上に、ヨルダンはもともと物価が高い国です。ヨルダンとシリアの国境が開いていた時は、ヨルダン人が物価の低いシリアに買い物に行っていたというくらい、物価に差があります。ザアタリ難民キャンプには現在約8万人が暮らしています。全体で66万人の難民がいると言ったのですが、ヨルダンにもう一つあるアズラック難民キャンプと合わせても14〜5万ほどにしかなりません。実は、その他の人たちはキャンプ外に住んでいます。キャンプの外に住んでいる人の暮らしというのも、キャンプとはまた違った大変さがあります。

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