アメリカ人の生活が日本人よりも苦しい理由 「物価上昇で景気も良くなる」の根本的な誤解

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現実に、アメリカ国民の生活が極めて疲弊しているのは、アメリカ政府が2012年に公表しているように、国民の6人に1人が貧困層、3人に1人が貧困層または貧困層予備軍に該当するという厳しい調査結果が表しています。

アメリカのGDPと企業収益が金融危機の時期を除いて順調に拡大基調を続けてきたのとは対照的に、国内で貧困層および貧困層予備軍が増え続けて格差が史上最悪の水準にまで拡大してしまったというのですから、少なくとも2000年以降で見れば、インフレ目標政策がいかに間違っていたのかということを、私たちはしっかりと認識する必要があるでしょう(「貧困大国アメリカを追いかける日本」2014年1月10日付のコラムを参照)。

普通の人々の生活を苦しめる経済金融政策を改めるとき

私がいつも疑問に思っているのは、「経済政策や金融政策はいったい誰のために存在するのか」ということです。すべての人々や企業に平等に恩恵をもたらすユートピア的な経済政策や金融政策などは存在しないという現実を、私も承知しているつもりです。

とはいえ、それにしてもアメリカの大型減税策や日本のアベノミクス、主要国の中央銀行のインフレ目標政策などは、富裕層や大企業などごく一部に恩恵を集中させる政策のため、普通に暮らす大多数の人々の立場から見ると、あまりにも希望が持てないものばかりです。経済の本質や歴史について先入観を持たずにしっかりと検証していれば、このような格差を助長する経済政策や金融政策を行うはずがなかったのです。

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私の先の疑問に対する答えはもちろん、普通の暮らしをしている人々のために存在しているということです。マクロ経済学を確立させたJ.Mケインズの師匠でもあった、ケンブリッジ大学のアルフレッド・マーシャル教授は学生たちをロンドンの貧民街に連れて行き、そこで暮らす人々の様子を見せながら、「経済学者になるには冷徹な頭脳と温かい心の両方が必要である」と教え諭したといわれています。アメリカの主流派の経済学者たちや、彼らを支持する欧州や日本の経済学者たちには、ぜひともマーシャル教授と同じ志を持ってほしいと思っています。

そのうえで、なぜアメリカで貧困や格差が深刻化しているのか、なぜトランプ大統領が誕生するまでになったのか、そういった現実をしっかりと直視しながら、普通の人々の生活を苦しめる経済金融政策を改めなければならないという考えに行き着いてほしいのです。

中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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