アメリカの1世帯あたりの実質所得(中央値)が2000年より低い水準にとどまっている状況下において、ガソリン、電気、食料といったモノが2000年からどれだけ上がったのかを計算してみると、ガソリン価格は最高値の時に2.9倍、電気料金は1.7倍、食料価格は1.5倍にまで上昇しています。その一方で、自動車や衣料品などの価格はほとんど上がらずに、電化製品の価格などは日本ほどではないにせよ、大幅に下がってしまっていたのです。
消費者物価の上昇率を大きく超えて、生活に必要不可欠なモノの価格が上昇してしまったというのは、市井の人々の生活感覚から判断すれば、正味の実質所得は公表されている実質所得よりもずっと低くなっているということを意味しています。
一時的な住宅バブルが物価上昇の痛みを覆い隠していた
2017年末の時点でも、ガソリン価格は2.0倍、電気料金は1.7倍、食料価格は1.5倍の水準にあることを考えると、アメリカ国民の生活が日本と比べてかなり厳しい状況にあることがわかります。富裕層や裕福な中間層より下の人々にとっては、正味の実質所得は統計上の実質所得よりも1~2割くらい落ちていると考えられるのではないでしょうか。少なくとも2000年以降のインフレは、アメリカの景気拡大によるインフレというよりも、人々の生活水準を押し下げたインフレであったという要素のほうが強かったといえるでしょう。
ただ、2000年~2007年にアメリカ国民がそれを認識できなかった背景には、住宅バブルがそれを覆い隠していたという事情があります。
大して所得がない人々でも、住宅ローンやクレジットカードローンで借金漬けの生活を許されたのですから、たとえ低所得であっても生活が苦しいなどと感じる機会は少なかったでしょう。しかし、住宅バブルが崩壊した後は、そういった隠れていた事実が噴出し、アメリカが深刻な貧困や格差の問題に苦しむことになったのです。
その結果として、2011年に「ウォール街を占拠せよ」をスローガンとした大規模デモが起こったのですし、2014年~2015年にかけて全米各州で最低賃金を大幅に引き上げる動きが広がっていたわけです。
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