アップル「100%再生エネルギー」の深い意義 難関だった日本でもついに「100%」に

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アップルの次なるゴールは、iPhoneをはじめとする製品を100%再生可能エネルギーで製造することだ。これによって、アップルのカーボンフットプリントの7割以上がなくなる計算となる。ジャクソン氏は新たに9つのサプライヤーがこの輪に加わったと発表した。

昨今はiPhoneに使用するレザーケースが充実しているが、その皮革製品を供給するECCO Leatherも、再生可能エネルギーで製造される。またiPhone XのFace IDやAnimojiなどを実現するためのセンサーを製造しており、アップルが米国の先端製造業向けファンドで投資したFinisarもまた、クリーンエネルギーでの製造を実現している。

日本のサプライヤー、イビデンの水上太陽光発電。アップル向けの製造に使われる以上の電力を発電している(写真:アップル)

日本のサプライヤーでは、チップのパッケージなどの製造を手がけるイビデンが、アップル向けの製造に関して100%再生可能エネルギーへの転換を実現している。水上太陽光発電などを活用し、12MWのエネルギーを作り出している。

今回のリリースでは新たに、プリント基板を絶縁しながら保護するソルダーマスクのサプライヤー、太陽インキ製造も、アップル向けの製造に関して100%再生可能エネルギーへの転換を実現した。

ジャクソン氏は「埼玉県に1MWのソーラー発電施設を設置しましたが、アップルや他のサプライヤーの取り組みから刺激を受けてこの取り組みを始めている。世界中のサプライヤーに、この輪が広がって行くことを期待しています」と述べた。

未来の地球は若者のもの

アップルが毎年4月22日のアースデーを前に、気候変動への取り組みに関連する発表を行ったことには、米国内における政治的な意味合いもある。

アップルは先週、米国環境保護庁に対して、文書を送付している。オバマ政権時代に策定された二酸化炭素排出削減などを定めた規制、クリーンパワープラン(CPP)を、現在のトランプ政権は差し戻そうとしており、アップルはこれに反対する意見を表明したのだ。

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現ドナルド・トランプ政権が気候変動への取り組みを交代させようとしている背景には、原油や天然ガス、石炭などの産業振興による雇用の回復と、輸出競争力の向上による貿易赤字の縮小を狙っている背景がある。現在米国は中国との間で激しい関税の応酬を繰り広げているが、これも貿易収支の改善を目指すものだ。

しかしジャクソン氏はむしろ逆効果だと指摘する。クリーンエネルギーに関する規制の緩和は、再生可能エネルギー投資をしている企業、アップルやより小規模な企業にとって、先行き不安となる。またこの分野における米国の国際競争力を削ぐという。

強調したのは、「未来の地球は若者のためにある」という点だった。

「気候変動の影響を最小限に食い止めて、環境を残して行くことが重要です。イノベーションが政策、技術などのあらゆるレベルで共有され、世界中のより多くの若者がクリーンエネルギーに関して学び、それを基盤とした未来に育っていってほしいと願っています」

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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