プーチン大統領が目指す米国との戦略的関係 次の6年で冷戦時代に戻るのか、微妙な安定か

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このように、第4期プーチン政権の対米政策は、先日の年次教書演説で示された「ロシアも力には力で対抗する」とのロシア版「力による平和」宣言がその基調になる。これは、2000年5月、「大国・ロシアの復活」を掲げてロシア大統領に就任したウラジーミル・プーチンにとって、自らの威信をかけた最後の闘いとなるであろう。

ただし、プーチン政権はやみくもに米国との対立を望んでいるわけでも、まして冷戦時代のような軍拡競争を仕掛けようと考えているわけでもない。

その目指すところは、米国にロシアを大国として認めさせたうえで、利害の一致しないところでは対立も辞さないが、利害の一致するところでは協力できるような、安定的な戦略関係を米国との間で構築することにある。

そんなプーチン大統領の対米戦略観を理解するために注目すべきシグナルが少なくとも2つある。

決定的な対立は避けて戦略的安定性を

まず、ロシア外務省随一の軍備管理問題の専門家であるアナトリー・アントーノフ外務次官を新たな駐米ロシア大使として派遣したこと。

「核戦力を基盤とした戦略的安定性の確保こそ、米ロ関係を含む国際関係の安定化の基礎」と考えるロシアにとって、これ以上に重要な対米関係上の問題はない。

アントーノフ大使にとって喫緊の課題は、2021年に期限が来る2010年調印の新戦略核兵器削減条約(新START)の延長問題、そして、冷戦時代の1987年に調印された中距離核戦略全廃条約(INF条約)からの離脱問題である。

前者は恐らく延長される公算が高いが、問題は後者である。というのも、米国政府はかねてより「ロシアはINF条約に違反し、国内で中射程の陸上発射型巡航ミサイルを配備している」と主張しており、米国連邦議会の中からもINF条約からの離脱を促す声が出てきているからだ。

一方、ロシアもまた、米国が欧州やアジアにおいて配備しているミサイル防衛システムの発射台には巡航ミサイルを搭載可能であり、米国こそINF条約を弱体化させていると反論している。

いずれにせよ、米ロ双方がINF条約から離脱したら、冷戦時代を彷彿とさせるような激しい軍拡競争が再開される危険性がある。また、ここでは詳細しないが、この問題は日ロの平和条約交渉にも微妙な影を落としている。

次は、2018年1月、プーチン大統領がセルゲイ・ナルイシキン対外情報庁(SVR)長官、アレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安庁(FSB)、イーゴリ・コロボフ連邦軍参謀本部情報総局(GRU)長官というロシアの3大情報機関のトップ全員を米国に派遣したこと。

2001年9月11日に米国で勃発した同時多発テロ事件(9・11テロ事件)の際、当時のジョージ・ブッシュ米国大統領に最初に電話をかけたのはプーチン大統領だった。それ以来、今日に至るまで対テロ分野は、米ロが協力可能な数少ない分野の一つであり続けている。

なお、米国を訪問したナルイシキン SVR長官とボルトニコフFSB長官は、マイク・ポンペオCIA長官(当時)と会談している。そのポンペオ氏は先日、レックス・ティラソンに替わって新たに国務長官に指名された。

以上、プーチン大統領が発した2つのシグナルは、「力には力で対抗」を基調とする第4期プーチン政権下の米ロ関係において、これを決定的な対立にまでは至らせないための防波堤の役割を果たすであろう。

(※本記事の内容は筆者個人の見解であり、所属先とは無関係です)

畔蒜 泰助 国際協力銀行モスクワ駐在員事務所 上席駐在員

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あびる たいすけ / Taisuke Abiru

1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。モスクワ国立国際関係大学修士課程終了(政治学修士)。民間シンクタンク・東京財団研究員を経て、2017年1月より現職。主著に『「今のロシア」がわかる本』(2008.3、三笠書房知的生きかた文庫)。また、『プーチンの世界』(2016.12 、新潮社)を翻訳監修・解説。

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