プーチン大統領が目指す米国との戦略的関係 次の6年で冷戦時代に戻るのか、微妙な安定か

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これら一連の過程を経て、同年7月8日、G20サミット開催中のドイツ・ハンブルグで、ついにプーチン氏とトランプ氏による初の米ロ首脳会談が行われた。会談時間は当初予定の30分を大幅に超え、2時間15分に及んだ。シリア「対テロ」協力では、ロシア、米国、ヨルダンの3カ国による同国南西部に緊張緩和地帯の設定合意が発表されたほか、懸案のウクライナ問題では、トランプ政権下で空席が続いていた米国政府ウクライナ問題全権代表にカート・ボルカー元NATO大使を任命することが発表された。

また、トランプ政権がその対ロシア政策を遂行するうえでの最大の障害ともいうべき、ロシア・ゲート問題に対処すべく、両国間でサイバーセキュリティに関する作業部会を設けることで合意したと発表された。

かくして、米ロ両国は関係改善に向け、確かな一歩を踏み出したかに思われた。

米ロ関係の潮目を変えた対ロシア制裁強化法の成立

ところが、この米ロ首脳会談でのトランプ大統領の言動に強い懸念を抱いた米国の連邦議会が、トランプ大統領の対ロシア制裁解除の権限に制限を掛けるべく動き出す。その結果、2017年7月27日、上院がほぼ全会一致で可決したのが対ロシア制裁強化法案だった。同年8月2日、トランプ大統領は同法案への署名を余儀なくされた。

最大のポイントは、同法の成立により、トランプ大統領は連邦議会の承認なしに、自らの判断のみでは対ロシア経済制裁の解除や緩和を行えなくなった点にある。これにより、近い将来、米国による対ロシア経済制裁が解除又は緩和される可能性は遠のいた。

これ以降、米ロ関係は徐々に対立モードに突入していく。2017年前半、米露の関係改善の触媒として機能していたシリア「対テロ」協力でも、ラッカ陥落作戦が終了した同年10月以降、徐々にその利害の対立が表面化し始める。

2017年11月、米ロ両国は7月のハンブルグに続く2回目の米ロ首脳会談を、APECサミットの舞台のベトナム・ダナンで開催すべく、準備を進めていた。ところが、結局、事前に用意されたシリアでの「対テロ」協力に関する共同声明は発表されたものの、立ち話が行われた程度で、本格的な首脳会談は実現しなかった。この時期に米ロ関係をめぐる状況が大きく変化したことを示唆する象徴的な出来事だった。

冒頭で述べた2017年12月から2018年2月にかけて、トランプ政権による一連の戦略文書の発表、そして、同年3月のプーチン政権による年次教書演説は、以上の流れの延長線上のものと見るべきであろう。

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