プーチン大統領が目指す米国との戦略的関係 次の6年で冷戦時代に戻るのか、微妙な安定か

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バラク・オバマ政権下の2014年に勃発した一連のウクライナ危機を受け、米国は欧州諸国も巻き込んで本格的な対ロシア経済制裁を発動するなど、米ロ関係は劇的に悪化していった。大統領選挙に勝利したトランプ陣営が、そんなプーチン政権との関係改善を志向していたのは間違いない。当初は米ロ間で「ビック・ディール」が成立するのではとの観測も浮上していた。

この場合の「ビック・ディール」とは、ロシアがシリアでの対テロ戦争や対中国強硬路線などで米国に協力することと引き換えに、米国はウクライナ問題をめぐる対ロシア経済制裁を解除又は緩和する。また、より中長期的にウクライナなどでのロシアの特別な地位を認めるというものである。

だが、当時、トランプ大統領自身がロシアとの「ビック・ディール」を本当に望んでいたとしても、それは連邦議会や国務省、軍、情報機関、シンクタンク、マスメディアなどで影響力を持つワシントン主流派の戦略観とはあまりにかけ離れたものだった。しかも、ワシントンには政界のアウトサイダーであったトランプ氏が大統領に当選してしまったことへの困惑が広がっていた。

そんな中、ヒラリー・クリントン候補を擁して敗北した民主党やFBI(米国連邦捜査局)などが主導する形で浮上したのが、2016年の米国大統領選挙において共和党のトランプ候補を勝利させるためにロシア政府がサイバー攻撃やSNSを使ったプロパガンダの手段を用いて一連の世論工作や選挙干渉を行ったとされる、いわゆるロシア・ゲートだった。

かくしてトランプ政権は、大統領側近の辞任なども相まって、発足直後から、反ロシア・反トランプ感情を持つワシントン主流派からの厳しい監視の下で諸政策を進めざるを得ない状況に追い込まれた。

シリアでの米ロ「対テロ」協力で関係改善図る

それでも2017年前半、プーチン政権は、まずシリアでの「対テロ」協力からトランプ政権との関係構築を図っていく。

同年1月20日に正式スタートしたトランプ政権がシリアでの対テロ戦争において最優先課題としたのが、当時、IS(自称・イスラム国)が本拠地を構えていたシリア北東部ラッカの陥落作戦だった。そのための地上軍として、米軍はクルド勢力を主体とするシリア民主軍(SDF)と連携することを決定する。

シリア北部におけるクルド勢力の支配領域の拡大に強い懸念を抱くトルコのエルドアン政権は、もちろん、これに強く反発していた。当時、トルコ軍がクルド勢力の支配地域に軍事侵攻を行っていたら、SDFは米軍主導のラッカ陥落作戦には参加できなかったはずだ。だが、そんなトルコ軍の前に立ちはだかったのが、米ロ両軍だった。

2017年3月初旬、トルコ軍がクルド勢力の支配下にあるシリア北部マンビジュへ侵攻しようとすると、米ロ両軍がマンビジュに進駐し、これを阻止。さらに3月中旬には、やはりクルド勢力の支配下にあるシリア北西部アフリンにもロシア軍が停戦監視団として進駐し、トルコ軍からの攻撃を未然に防いだ。

つまり、同年6月7日に始まった米軍とSDFによるラッカ陥落作戦はロシアの側面支援があって初めて可能だったのである。

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