「安倍首相の逆をいくリベラル派日本の主張」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

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“ソフトパワー”によるアジアでの先駆的役割を

 一方、今後の日本の方向性について、日本のリベラル派の代表格である朝日新聞は別の見方を提示している。同紙は5月の社説特集で、「提言・日本の新戦略」と掲げた。その内容は、「憲法9条は改正すべきではなく、それに代わって自衛隊を合法化すべき」という主張であった。同紙の社説は、日米安保条約を安全保障の基調路線として受け入れるべきだとし、日本が集団的自衛権を持つことを否定しているのである。

 朝日新聞が憲法9条維持を主張するのは、9条によって日本がアメリカの高圧的な軍事政策に対抗できるからだという。実際、ブッシュ大統領を喜ばせようと小泉前首相は自衛隊派遣に踏み切ったが、そうしたことが前例になることを同紙は懸念している。保守派の論陣は、9条改正によってアメリカの圧力に抵抗できるはずだと主張するが、同紙は逆に9条維持によって、日本はアメリカに対抗できると訴えているのである。

 朝日新聞が9条維持の方向性の先に提示しているのは、軍事力に拠らない日本の“ソフトパワー”による、アジアでの先駆的役割である。

 たとえば公海の自由や国際金融システムの安定化など、国境を越えた公共財をいかにアジアの各国が享受できるようにするか、それは大きな課題である。そこで日本が島国根性を抜け出し、アジアの主導的な役割を果たせれば、隣国との良好な関係を築きながら、アジア全体に対しての貢献も果たせるというのである。

 さらに朝日新聞は、日本は地球温暖化の問題に対しても、石油ショック後の省エネ対策のような知恵を結集し、国際的な指導力を発揮すべきだと主張している。興味深いことに、同紙の社説が出た直後、安倍首相は「2050年までに日本は二酸化炭素の排出量を半減し、発展途上国が新京都議定書体制に参画することを支援する」と公約している。

 同紙は日本が果たすべき役割について、「アフリカ向け政府開発援助を増やし、世界の貧困を和らげ、国連の平和構築委員会のような紛争の阻止と管理の仕組みを作るべき」と主張し、国連の平和維持活動への参加も呼びかけている。また中国に対しても、民主化を確立するよう粘り強く働きかけるべきだと同紙は主張する。そのようにエネルギーと環境の分野で中国を積極的に支援することで、アメリカ、中国との良好関係が構築できるのかもしれない。

 日本は今、世界の多様なパワーバランスの中で、さらなる影響力を行使しようとしている。今後アジアの中でどのような立場を構築し、役割を果たしていくべきか。リベラルな日本人の知人は、「日本がグローバリゼーションに対応するのは、これで3度目だ」と語っていたが、今後どのような方向に向かっていくのだろうか。

(C)Project Syndicate

ジョセフ・S・ナイ

1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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