「安倍首相の逆をいくリベラル派日本の主張」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ
今、アジアの成長に関心を持つ多くの人が、中国とインドに注目している。日本の存在感は、この巨大な両国の陰に隠れがちだといえよう。しかし冷静に分析すると、やはり日本はアジアの中心的存在だとわかる。
日本のGDPは500兆円超。これは中国とインドの合計水準を上回る。また日本国民一人当たりの所得は、中国の10倍。さらに日本は毎年400億ドルの防衛費を支出する、世界第5位の軍事大国でもある。中国も急速に経済成長しており、近い将来、日本を追い抜く日も来るだろうが、アジアの中で日本の影響力が大きいことに疑いはない。
歴史を振り返っても、日本は国際的に極めてユニークな立場を貫いてきた。明治維新後、日本は世界中から知恵と技術を結集し、列強と肩を並べる国にまで成長した。1904年の日露戦争の勝利は、その一つの到達点である。その後不幸にも軍国主義に突入し、敗戦と占領という結果を招いたが、戦後は経済大国として見事に再生し、世界各国の羨望の的となった。
こう見ると日本は、歴史上の2度の局面で、グローバリゼーションの波を自国の改革によって乗り越えてきたことがわかる。ワシントン大学のケネス・パイル教授は自著『ジャパン・ライジング』の中で、日本の再生は世界政治の変化に迅速に対応してきたことが大きいと指摘したが、日本は独自の改革とグローバリゼーションへの対応によって、東アジアの中で歴史的にも先導的役割を果たしてきたのである。
そうした日本の目下の課題は、アジア各国の勢力図の中で、今後いかなる役割を果たしていくかである。
実際、日本国内でもこうした議論は深まりつつあり、政治の舞台ではいくつか象徴的な兆候も見られる。
たとえば安倍首相は、歴代首相と比べ、はるかに国家主義的な立場をとっている。自民党としても憲法9条改正の機運を高めており、世論の分裂を招いている。ただ専門家の多くは、「今後10年以内に憲法は改正される」と信じているようだ。
安倍首相は、首相就任直後に中国を訪問した。この迅速な行動は、小泉前首相の靖国神社参拝でギクシャクしていた日中関係の修復に貢献したが、安倍首相がどんな長期的ビジョンの下に、こうした動きを見せたのかは誰にもわからない。